「第1回臨床自律神経機能Forum」抄録

■原田和昌 石川譲治 東京都健康長寿医療センター

最近報告されたSPRINT高齢者サブ解析では、75歳以上の高血圧患者を120mmHg未満と140mmHg未満の群に無作為に割り付けたところ、厳格降圧群で全死亡が33%、複合心血管病の発症が34%抑制された。ただし本試験では自律神経異常を起こしうる糖尿病患者や脳卒中既往例が除かれていることに注意が必要である。また、JSH2014では高齢者高血圧について、「起立性低血圧や食後血圧低下の頻度が高いことに加え,摂食量減少などによっても血圧が低下することが多い。血圧動揺性も大きいことが多い」と記載されている。このように高齢者高血圧の治療において、血圧変動は大きな問題となっている。
最近我々は、食後のめまい、失神を主訴として受診された症例を報告した。著明な食後血圧低下(-58~-64mmHg)を呈し、食後に失神をきたす軽度認知症の78歳女性患者であるが、きりつ名人にて、交感神経のactivation(ΔL/H)の著明減弱を認め、MIBG心筋シンチグラフィーなどにてレビー小体病(DLB)と診断された。シタグリプチン投与にて食後の血圧低下が減弱し、交感神経のactivationも回復傾向で、MMSEでみた認知機能も徐々に改善した。本症例以外にも、血圧変動(低下)を伴う高血圧を合併したDLB患者において降圧薬の調整などにより血圧変動が改善し、認知機能が著明に改善または不変の症例を認めており、血圧変動が認知症の原因となる可能性が示唆される。
加齢に伴う起立性低血圧や食後血圧低下などの血圧変動の原因には多くのものが考えられるが、自律神経異常を外来で早期に診断し、治療することで、ある種の認知症の診断、治療に役立つことが期待される。