きりつ名人の次なる応用展開

既に紀元前より“脈の不整”が、一種の病態として気付かれていたことは古代エジプトのパピルスに記載されているという。脈は中国の漢方医学でも、“脈診”として、有力な診断法となっていたが、この場合は循環器の診断ではなく、陰陽虚実の体質診断の方法として、である。

 “心臓の鼓動”が科学になってきたのは、19 世紀にはA.D. ウォーラーによる人類初の心電図の記録、ついで,20 世紀のアイントーフェンによる実用的心電計の開発と実用化によってである。

 さらにこの心拍のダイナミズムから自律神経機能を診断する、これが“きりつ名人”の新機軸である。

 一方、循環器学や神経学の臨床では“脳梗塞の原因、リスク因子”としての心房細動が大きな標的となり、心臓の動きは血液凝固学ともリンクすることが判明してきた。心拍という力動学は、血管内皮細胞の生化学的代謝-血小板/凝固線溶系ともとリンクすることが判明してきたことになる。すなわち“こぶし大の心臓はテニスコート20面以上にもわたる内皮細胞機能のレギュレーターである”ことが判明してきたのである。

果たしてきりつ名人を駆使して、内皮機能まで診断できるのか? 「あるいは心拍=自律神経機能≒内皮機能」という方程式、これからの大いなる課題と夢である。 

丸山征郎
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 システム血栓制御学講座 ・特任教授