黒岩義之(帝京大学溝口病院・脳卒中センター長、横浜市立大学・名誉教授、日本自律神経学会・前理事長)、平井利明(帝京大学溝口病院・神経内科准教授)

ストレスには多様なスペクトラムがあり、急性ストレス・慢性ストレス、快適ストレス・不快ストレス、外的環境ストレス・内的環境ストレス、身体ストレス・心理ストレスに分けられる。視床下部や消化管には、外的・内的環境ストレスを感知するG蛋白共役受容体とイオンチャネル・センサーがあり、いわゆる「脳腸相関」の生物学的基盤を構成する。陽イオンチャネルであるTRPチャネルは痛みセンサー(TRPV1)、心筋のメカニカルセンサー (TRPV2)、樹状細胞の病原体認識センサー(Toll-like レセプター)などに関与、生命の根源に関わるポジションにある。カンナビノイド受容体はストレス反応においてTRPチャネルとバランスをとる役割を果たす。脳室周囲器官、視床下部、脈絡叢はストレス・シグナルが通る脳のセキュリテイ・ゲート(window of the brain)である。このセキュリテイ・ゲートはG蛋白共役受容体、TRPチャネル、グリア・血管内皮細胞網を持ち、時計中枢機能、センサー機能、分泌機能の3系統を支配する。ストレス・シグナルを伝達し、ストレス反応を起こすパスウェイは神経パスウェイ(自律神経系)、液性パスウェイ(内分泌・免疫系)、遠隔信号パスウェイ(バイオ・タイマー系)の3つからなる。視床下部・脈絡叢をセンターとする遠隔信号パスウェイは中枢・末梢生体時計を同期させるシステムである。ストレス反応制御はテロメア損傷、老化、発癌の予防につながる。ストレスから命を守るために、テロメアを保つ方向性で生活スタイルを改善させることが重要である。生体の恒常性をストレス攻撃から守る視床下部・脳室周囲器官コンプレックスの制御破綻(G蛋白質機能の攪乱)によって複雑な体調不良(睡眠障害・内臓の自律神経症状、内分泌・免疫障害、疲労、記憶障害、疼痛、感覚過敏など)が起こる。これが「視床下部症候群(脳室周囲器官制御破綻症候群、G蛋白質機能攪乱症候群)」である。この症候群へのチャレンジは「不定愁訴の医学」というパンドラの箱を開ける突破口になる。ストレス反応の本態を突き止めるには「枝」(ヒト)ではなく、樹木全体(生命系全体)を観ることが大切である。