スケジュールクリックしてください抄録等に移動します 日時:平成30年11月17日(土)11:00~17:40 
■第1部 講演&体験 (一般の方対象)
11:00 
「自律神経を知ろう」
     岸田郁子 (医療社団法人清心会 藤沢病院 )
・きりつ名人体験

第2部 (meijinユーザ・医療従事者 研究者対象)
■基調講演 座長 高田正信 (富山逓信病院 院長)
12:40
「拍動が血管機能を活性化する」 
      丸山征郎 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 システム血栓制御学講座 ・特任教授)

■第1セッション  座長 栗田正 (帝京大学ちば総合医療センター神経内科 教授)
13:40   
「起立負荷時の自律神経活性評価の臨床応用」-肥満からアスリート評価まで- 
      木村穣 (関西医科大学健康科学センター・教授)
「高齢者の健康福祉増進施設における自律神経機能の測定について」 
      鏡森定信 (富山市角川介護予防センター/富山大学名誉教授)
「冷え症外来と自律神経機能評価」 
      伊藤 剛 (北里大学客員教授(北里大学東洋医学総合研究所))

■ポスター紹介 協賛企業紹介 交流会 自律神経機能を"みる"×"しる"×心豊かに"くらす"をテーマに 
15:00  ポスター・企業 紹介
*ポスター掲示 ポスター 各分野の先生の心拍変動解析の臨床・研究でのご活用をポスター掲示にてご紹介
1.歯科治療時におけるアルコール関連障害群患者の自律神経解析 井上 裕之(国立病院機構 久里浜医療センター歯科 ) 
2.筋・筋膜性疼痛患者のストレス負荷時の自律神経活動評価 椎葉俊司(九州歯科大学付属病院)
3.脳脊髄液減少症における自律神経機能の関与の検討 光藤尚(埼玉医科大学神経内科)
4.バーベル挙上時の自律神経反応におよぼす靴中敷きの影響 蜂須貢(昭和大学薬学部臨床薬学講座薬物治療学部門)
5.ウエイトリフティング選手のトレーニング期間中の心拍変動の推移 三好英次(東京国際大学人間社会学部スポーツ科学科)       
6.夕方の激しいスポーツが夜間睡眠中の自律神経活動に及ぼす影響 吉田豊(名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科)
7.日帰りヘルスツーリズムにおける妊娠後期女性の自律神経機能の変化の1例 藤田小矢香(島根県立大学看護栄養学部)
8.新卒看護師を対象とした自律神経活動の変化 川井美緒(和歌山県立医科大学保健看護学部)
9.心拍変動解析を利用した組織活性化の提案 尾崎夏穂(富士ゼロックス株式会社 研究技術開発本部) 
10.心拍変動解析による組織状態の診断 早野順一郎(名古屋市立大学大学院医学研究科)

第2セッション 座長 黒岩義之(帝京大学溝口病院・脳卒中センター長、横浜市立大学・名誉教授、日本自律神経学会・前理事長)
16:10  
「電子的自律神経制御による循環器疾患治療への取り組み」 
      朔 啓太(九州大学 循環器病未来医療研究センター・助教)
・「起立耐性における筋交感神経活動の意義」
       岩瀬 敏(愛知医科大学生理学・教授)
■ 総括として
「ストレス反応の脳科学」 
     黒岩義之(帝京大学溝口病院・脳卒中センター長、横浜市立大学・名誉教授、日本自律神経学会・前理事長)

■閉会
17:40 

BGM

ご感想をお伺いしました。(動画 音声付き)

 

■第3回臨床自律神経機能Forum開催に寄せて 

「きりつ名人:夢と課題」 きりつ名人次なる応用展開 

既に紀元前より“脈の不整”が、一種の病態として気付かれていたことは古代エジプトのパピルスに記載されているという。脈は中国の漢方医学でも、“脈診”として、有力な診断法となっていたが、この場合は循環器の診断ではなく、陰陽虚実の体質診断の方法として、である。  
“心臓の鼓動”が科学になってきたのは、19 世紀にはA.D. ウォーラーによる人類初の心電図の記録、ついで,20 世紀のアイントーフェンによる実用的心電計の開発と実用化によってである。 
 
さらにこの心拍のダイナミズムから自律神経機能を診断する、これが“きりつ名人”の新機軸である。 
 
一方、循環器学や神経学の臨床では“脳梗塞の原因、リスク因子”としての心房細動が大きな標的となり、心臓の動きは血液凝固学ともリンクすることが判明してきた。心拍という力動学は、血管内皮細胞の生化学的代謝-血小板/凝固線溶系ともとリンクすることが判明してきたことになる。すなわち“こぶし大の心臓はテニスコート20面以上にもわたる内皮細胞機能のレギュレーターである”ことが判明してきたのである。 
果たしてきりつ名人を駆使して、内皮機能まで診断できるのか? 「あるいは心拍=自律神経機能≒内皮機能」という方程式、これからの大いなる課題と夢である。

丸山征郎  鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 システム血栓制御学講座 ・特任教

 

■第1部 講演&体験セミナー(一般の方向け)

「自律神経を知ろう」岸田郁子先生 (医療社団法人清心会 藤沢病院 ・横浜市立大学医学部精神医学 客員講師)

近年、我が国でうつ病を含む気分障害の患者は100万人を超えると言われている。職場においても、メンタルヘルス不全者の割合は増大しており、特に、気分障害で長期休職する労働者が急増している。その数は全国で20万人を超えると推測する調査もある(五十嵐ら、2011)。その背景には職場でのストレス過多があるといわれ、職場での気分障害の予防や復職者の再発予防のためにも、ストレスの見える化、メンタルヘルス不全者への早期対応が急務となっている。
 精神科領域では、こうした気分障害による休職者を対象に、精神科リハビリ(以下: リワークプログラム)を実施する医療機関が全国的に広がっている。我々は、リワークプログラム受講者を対象に、精神症状・心理評価尺度を用いて多角的な調査を行ったところ、87.9%の気分障害患者が自律神経症状を有しており、職務遂行に何らかの障害を来していることが明らかになった。
 自律神経は、交感神経・副交感神経の2つの神経系からなる不随意神経である。意識とは無関係に、生命維持に重要な呼吸・循環・消化吸収・排泄・代謝・生殖などを調整して、生体の恒常性を維持する役割を果たしている。ストレスにさらされると、自律神経中枢である視床下部を介して交感神経活動が過剰となり、さらにこの状態が長期間続くと、交感神経と副交感神経の機能異常をきたし、多くの自律神経症状が出現すると推測されている。精神科領域では、上述のように、自律神経症状を有する患者が多く、近年、心拍変動解析を用いて、実際の自律神経活動を客観的に評価する試みがなされている。心拍変動解析は、非侵襲的に交感神経および副交感神経活動を分離定量化でき、簡便かつ鋭敏であり、被験者の負担を軽減できるという点で、他に類を見ない臨床的に有用な検査方法である。比較的安定した再現性の高い指標として、循環器科領域や神経内科領域をはじめ、多分野で用いられ、その臨床的意義は高い。
 一方、精神疾患患者における自律神経活動動態はいまだ未解明な部分が多い。我々は、リワークプログラムに通所中の気分障害患者104名を対象に、安静時の心電図を測定後、心拍変動解析により自律神経活動を定量化した。プログラム参加前、修了後の自律神経活動を比較したところ、プログラム修了後の副交感神経活動が有意に改善していた。本結果から、復職に向けた精神科リハビリであるリワークプログラムが、精神症状だけでなく、自律神経活動の改善に有効であることが示唆された。
 第3回臨床自律神経機能Forum第一部では、自律神経と、その測定法の1つである心拍変動解析について概説するとともに、こうした精神科領域での自律神経研究結果を紹介する。

 

職場での気分障害の発生防止や、復職者の再発防止のためにも、ストレスの見える化がクローズアップされてきました。
そこで、第3回臨床自律神経機能Forumでは、社員のメンタルヘルスにお悩みの経営者の方、健康経営に関心のある方等を対象とした講演&体験プログラムを第一部として企画しました。

 

 

自律神経は正常であれば起立した時に適切に交感神経が反応します。「きりつ名人」はこの原理を応用し、ストレス、疲労度をみるもので、約4分間の簡単な測定です。測定後にはメッセージとアドバイスを印刷します。実際に一般の方で測定した人の9割以上の方が定期的にチェックしたい、自分の生活習慣を見つめ直すきっかけになったとの声があります。

 

 

 

 

 

 

 

目次

第2部 (meijinユーザ・医療従事者 研究者対象)

開催の挨拶 高田正信先生 (富山逓信病院・院長)

■基調講演   座長:高田正信先生 (富山逓信病院・院長)

 

 

 

 

 

 

 

 

「拍動が血管機能を活性化する」 丸山征郎 先生
(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 システム血栓制御学講座 ・特任教授)

■丸山征郎 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 システム血栓制御学講座 ・特任教授)

◆血管内皮細胞は非血栓性である
 “閉鎖循環系”の哺乳類では、機能分化した各臓器間が血管で繋がり、時々刻々と物質・情報のやり取りが行われ、連関/統合されて機能することが必須である。そのためには循環経路内部の円滑な血液循環が必須であり、血栓による閉塞も、逆に破綻による出血も許されない。この血液の円滑な循環性と、破綻時の迅速な止血性は、血管の内側を覆っている一層の血管内皮細胞(Endothelial cells, 以下EC)によって営まれている。すなわちECは“抗血栓性”機能を有しており、円滑な循環を保障しているが、逆にEC破損時には、止血能を有したEC下層の止血分子群が露呈されて、連続性に止血反応が自動スイッチオンされることになる。

◆内皮細胞の抗血栓機能はズリ応力によって機能発現する
 ECのこの抗血栓性は、ECによる❶抗血小板活性(PGI2, NO産生など)、❷抗凝固活性(thrombomodulin, antithrombin, TFPI, t-PA などの発現)によって営まれている。そして、これらのECの抗血栓活性の発現は、ECに掛かるズリ応力(shear stress) によって営まれている(shear stress responsiveness, SSR)。このECのSSRは、リズミカルな拍動性血流によって機能発現しているので、“ECの抗血栓性は拍動によって機能している”ということになる。

◆“拍動性血流”は心拍から生まれる
 周知のごとく、血液の循環説はW・ハーヴェイによって提唱された(1628年、北イタリア パドバ大)。しかし、レオナルド・ダビンチ(1452-1519) はハーヴェイより少なくとも数十年前には同じくパドバ大で動物を解剖し、詳細な心臓のスケッチと心臓から血液が“渦巻いて拍出する”図(後年のカルマン渦流)を描いているので、W・ハーヴェイの循環説生誕には、ダビンチの影響もあったのであろう。いずれにしろ、拍動性血流の源は心臓である。拍動という力学的なダイナミズムが、抗血栓分子発現という生化学的ベクトルに変換されて、血液の円滑な循環が保障されているのである。

◆心臓内の円滑な血流においても、
最近になり福島隆治ら(東京農工大)らは犬に心房細動モデル作成すると、その30分後には、“心臓内の血液”が凝固亢進状態に陥ることを証明した。リズミカルな心拍動は下流循環系の円滑な循環のみならず、先ずは血流発生源の心臓内部の円滑な血液循環に必須であることが証明されたことになる。

■第1セッション 座長:栗田正先生 (帝京大学ちば総合医療センター神経内科 教授)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起立負荷時の自律神経活性評価の臨床応用」 木村 穣 先生
(関西医科大学健康科学センター・教授)

■木村 穣・玉ノ井厚子(関西医科大学健康科学センタ)

心拍数周波数解析から求められる自律神経機能活性は様々な条件で変化する。起立負荷時の反応は、安静時ではとらえきれない潜在的な反応が観察されその臨床的意義が検討されている。我々は肥満患者での起立時負荷時のCVRRとL/Hの一過性の増加反応の減少と、その後の減量によるこれらの指標の反応の改善を報告している。また内臓脂肪面積は安静・起立・立位でのCVRR値と有意な負の関係を認め、L/Hは介入前のインスリン抵抗性の指標であるHOMA-Rと有意な正の関係を認めた。したがってこれら自律神経機能の起立負荷時の反応は、インスリン抵抗性の増加に伴う自律神経機能の低下と関連すると考えられた。また介入後の運動耐容能の指標である最高酸素摂取量(PeakVo2)はL/Hの起立負荷時の変化量と正の関係を認め、立位後の変化量と負の関係を認めた。したがって肥満患者の減量後の心拍数周波数解析から求められる自律神経指標は、運動耐容能の増加に伴い改善する傾向を認め、運動効果による自律神経機能改善の可能性が示唆された。
 一方、アスリートの1回の練習およびトレーニング経過中での疲労状態との関連を調べるために、高校バスケット部(インターハイ出場経験校)の強化合宿開始時とその後の通常トレーニング時の、練習前と練習直後の起立負荷時自律神経活性の変化を検討した。
その結果、個々の例では練習直後の起立時の反応性の低下する例、通常練習時の練習前起立負荷時のL/H、CVRRも反応が低下する例が認められた。これらの反応は担当トレーナーが見た練習状況、疲労度の状況と一致すると思われ、アスリートにおける疲労状態、すなわちオーバートレーニングとの関連が示唆された。
 以上の結果より起立負荷時の自律神経機能活性の評価は、肥満などの生活習慣病に伴う機能的低下のみならず、アスリートのオーバートレーニングによる疲労の評価などにも応答可能と考えられた。

「高齢者の健康福祉増進施設における自律神経機能の測定について」 鏡森定信 先生
(富山市角川介護予防センター/富山大学名誉教授)

■鏡森定信、岡本薫、中島恭子、濱谷京子(富山市立角川介護予防センター)

【目的】
当センターではここ数年間の経過で体力の向上・維持に関しては成果を確認できた。自律神経機能の測定も並行して実施しており、体力測定とは異なる視点でその概要を検討した。
【対象・方法】介護保険の要支援、要介護につながるリスクのある高齢者に、パワリハ、温泉運動浴、温熱療法などを行ってきた。各人のメニューを組み週2回3か月を基本とし運動指導士のもとグループを組んで行っている。「きりつ名人」で自律神経機能の測定を行った。
【結果】
1.日内変動について
同一人を10~17時に1日数回測定すると16時くらいから心拍変動や総合点の低下するものが多かった。起立時の心拍変動増加はいずれにおいてもほぼみられた。
2.連日変動について 
5~6日、ほぼ同時間帯での連日測定では、起立時の心拍変動増加はほとんどみられた。
3.介護予防メニュー実施前後について
大半が事後で総合点が低下した。また、事後では安静時の心拍変動はいずれも増加した。起立時のそれは事後に低下するものが多い傾向であった。起立時のL/Hでは事後において増大、低下がそれぞれ見られた(図参照)
【考察】
これまでの測定では、Schaferらの指摘(Good reproducibility of heart rate variability after orthostatic challenge .J Electrocardiol,2015)と同様に起立時の再現性が確認できた。なお、メニュー実施前後の総合点の比較には改善の必要があるが、被検者の関心度が高く、施設においても有用性を感じている。

「冷え症外来と自律神経機能評価」
伊藤 剛 先生
(北里大学客員教授(北里大学東洋医学総合研究所)

■伊藤剛(北里大学客員教授(北里大学東洋医学総合研究所))

 北里研究所東洋医学総合研究所は、1972年に日本で初めて本格的な東洋医学の研究と診療を行う機関として設立され、1986年には日本最初のWHO伝統医学研究協力センター指定を受け、1997年2月より全国で初めて「冷え症外来」を設け、漢方薬による治療を行うと同時に、冷え症の臨床研究を開始しています。しかしその後、諸般の事情により、冷え症外来自体は中断されてしまい、現在の冷え症外来は、2013年の専門外来スペシャルというテレビ番組に私が出演したのをきっかけに再開したものです。しかしその間、冷え症研究自体は、冷え症の診療を行いながら伝統医学的と現代医学(温熱生理学や自律神経学など)の両面から行って来ました。自律神経バランス評価機器として、電子瞳孔計(イリスコーダ)を早くから用い、その後はリアルタイム自律神経検査装置(きりつ名人)も併用し比較検討して参りました。
 今回は、冷え症外来紹介と、その中で行って来たリアルタイム自律神経検査装置の活用状況と共に、電子瞳孔計とリアルタイム自律神経検査装置の特性の違いを探るために、「電子瞳孔計とリアルタイム自律神経検査装置における自律神経バランスの評価」(2014年)、「冷えのぼせ(上熱下寒)の病態解明とその特徴について」(2015年)、「裏寒の病態解明―自律神経における特徴―」(2016年)、「自律神経より見た冷え症状の日内変動と季節変動について」(2017年)、「The difference of the autonomic nerve (AN) balance between the heart rate variability (HRV) and pupillography.」(2017)などの研究内容の一部をご紹介させていただければと思っています。
 

■ポスター紹介

ポスター掲示の先生方にも多くご出席いただきました。

「歯科治療時におけるアルコール関連障害群患者の自律神経解析」井上 裕之先生(国立病院機構 久里浜医療センター 歯科)

■井上 裕之1、5) 長谷 則子2) 井出 桃3) 李昌一4) 角田晃3) 宮城 敦3)  小松知子5)
関端麻美3) 西村 康3) 長谷 徹3) 柿木保明6

(1) 国立病院機構 久里浜医療センター 歯科 2) 神奈川歯科大学 歯学部 3) 神奈川歯科大学短期大学部  
4) 神奈川歯科大学大学院横須賀・湘南地域災害医療歯科研究センター・ESR研究室
5) 神奈川歯科大学大学院全身管理医学講座障害者歯科学分野 6 ) 九州歯科大学 老年障害者歯科学分野)

【はじめに】
 2014年「アルコ-ル健康障害対策基本法」が施行され、各地区でその具体的施行がなされつつある。これまで我々は、アルコール関連障害群患者の歯科治療中における体調リスクマネージメントが極めて重要かつ有用との考えからモニタリングを行い、起立負荷時の血圧変動に関して報告してきた。今回は総まとめとして、起立負荷後の血圧変動に関して、起立性高血圧群、起立性低血圧群、起立による血圧変動が起こらない群に分類して自律神経機能解析を行い、その発症メカニズムについて検討を加えたので報告する。

【方法および対象】
 歯科治療を行う前に心拍変動解析装置(クロスウェル社製 きりつ名人)により、交感神経、副交感神経のバランス状態、自律神経活動の状態、起立に伴う動作時の各値を測定分析し、総合的な自律神経・循環の状態・反応を評価した。起立性高血圧の判定には起立後最高血圧の変化、起立性低血圧の判定には起立後の最高血圧・最低血圧の変化の値を用いた。    
  対象は平成22年5月~平成26年4月までに久里浜医療センタ-歯科に受診した経験のあるアルコ-ル関連障害群患者であり、事前に治療時のモニタリングについて説明し、同意を得た88症例で、個人特定できないように配慮した。

【結果および考察】
 今回の調査対象となったアルコール関連障害群患者は、何れの群においても安静時においては心拍数の上昇を示すものの割合が多かった。心拍数は洞房結節に存在するペースメーカー細胞の自律的興奮を基本とするが、同時に交感神経と副交感神経の両者によっても 制御されており、実際はペースメーカー細胞自体の興奮数(内因性心拍数)よりも低く抑えられているが、全体として心拍数が増加傾向を示していたことから、飲酒による循環器系への影響があると思われる。
 また、血圧変動のない群においても、きりつ名人での標準分布と比較した場合、安静時の副交感神経活動の低下、自律神経活動の低下の比率がやや高い特徴がみられる。
 起立性高血圧症状を呈する群の起立負荷に対する反応は血圧変動の無い群とほぼ同様で、安静時に自律神経活動が低下傾向にあるものの割合がやや多い傾向であった。これに対して起立性低血圧群では安静時から心拍数の反応が過剰傾向を示し、同時に自律神経活動も過剰に反応しているものが半数、しかも自律神経活動の過剰は交感神経系が優位になっている結果であることが示された。つまり、起立性低血圧症状を呈する群の患者は少なくても自律神経活動を見る限り、血圧を上昇させるべく交感神経系は過剰に反応しており、血圧を正常に保てない何らかの要因があることが示された。

【結論】
 アルコール関連障害者では歯科治療時に様々な症状が発現するため自律神経解析法は、歯科治療の安全性を高めるために不可欠であり、体調管理法の早期確立は極めて重要といえる。

 

「筋・筋膜性疼痛患者のストレス負荷時の自律神経活動評価」 椎葉俊司先生(九州歯科大学付属病院)
■椎葉俊司, 左合徹平, 河端和音(九州歯科大学付属病院 ペインクリニック・歯科麻酔科)

【目的】
 筋・筋膜性疼痛 (myofascial pain, MP)とは,過敏な痛みを有し,触ると結節状に硬いしこりや筋肉の stiffness および筋肉スパスムが筋肉の一部,または数カ所に存在し,運動制限、筋力低下、疼痛を起こす。MPの発現•維持に交感神経活動が深く関与すると言われている.交感神経活動は身体および情動ストレスによって亢進する.本研究はMPのストレスに対する交感神経活動変化を明らかにすることを目的とする.

【方法】
 当科で治療中のMP患者(MP群,n=10)と健常成人ボランティア(control群,n=10)の2群を設定し、ストレス負荷時の自律神経活動変化を測定した。身体ストレスとして顔面部への電流(Hz,1.5~2.0mA)による疼痛刺激,情動ストレスはinternational affective picture system(IAPS)による映像ストレスを用いた.自律神経活動は自律神経解析ソフトReflex名人(クロスウェル社製)を用いて、心電図RR間隔のスペクトル解析し、交感神経活動の指標であるL/Hを比較検討した.

【結果】
 安静時のL/Hは2群間に有意差を認めなかった.身体ストレスに対して2群ともL/Hは上昇したが,群間に有意差は認めなかった.情動ストレスに対してはMP群で有意にL/Hの上昇が認められた.

【考察】
 身体ストレスと情動ストレスは異なった処理を受ける。情動ストレスによる心身への影響を軽減するために防御態勢を作ることができる. その中心的な役割を果たすのが前頭前野である.前頭前野は大脳辺縁系が情動ストレスに対し警戒を発したのを受けて,視覚および体性感覚野における入力を減弱させることで情動ストレスに適応しようとする. MP発症には前頭前野による情動ストレスへの適応機能障害の可能性がある.

 

「脳脊髄液減少症における自律神経機能の関与の検討」 
光藤尚1),田村直俊1),橋本洋一郎2),大塚美恵子3),中根俊成4),橋本康弘5),山元敏正1),荒木信夫1)
1)埼玉医科大学神経内科 2)熊本市民病院神経内科 3)国際医療福祉大学神経内科 4)熊本大学神経内科 5)福島県立医科大学生化学

【はじめに】
 MokriとLowは髄液漏出のない起立性頭痛において体位性頻脈症候群が多いことを報告しているが、脳脊髄液減少症の25%に体位性頻脈症候群を合併するとの報告がある。今回、脳槽シンチグラフィーを施行し脳脊髄液減少症の診断を得た22例を後方視的に検討し、体位性頻脈症候群を含む起立性調節障害の合併を検討した。

【対象と方法】
 脳脊髄液減少症を疑われて神経内科を受診し、脳槽シンチグラフィーを施行した22例を後方視的に検討し、起立性調節障害の合併を検討した。

【結果】
 22例中7例に起立性調節障害を合併した。7例のうち3例においては脳脊髄液減少症の治療を行い、一旦は頭痛が改善したが、その後起立性頭痛が再燃し、体位性頻脈症候群が確認されていた。1例においては起立性調節障害の患者に脳脊髄液減少症を合併していた。

【考察】
 体位性頻脈症候群を含む起立性調節障害は脳脊髄液減少症の終了後に発症しており、その合併の機序としてデコンディショニングが考えられた。しかし、他の4例においては脳脊髄液減少症の治療前ないしは治療終了前に発症しており、デコンディショニング以外の機序も推定された

【結語】
 脳脊髄液減少症と体位性頻脈症候群を含む起立性調節障害は合併しうる。

 

「バーベル挙上時の自律神経反応におよぼす靴中敷き(インソール)の影響」蜂須貢先生
(昭和大学薬学部臨床薬学講座薬物治療学部門)
■蜂須貢2)、船登雅彦1),大林 真幸1,2),落合 裕隆1,3) ,芳賀 秀郷1,4)、向後麻里2),上間裕二5) 

1)昭和大学スポーツ運動科学研究所 2)昭和大学薬学部臨床薬学講座薬物治療学部門
3)昭和大学医学部衛生学公衆衛生学講座 4)昭和大学歯学部歯科矯正学講座 5)株式会社ジンズ

【背景・目的】
靴の中敷き(インソール:IS)は足蹠のアーチを守り運動機能に影響を与えると言われている.今回、デッドリフトの試技にISがどの様に影響するかを、自律神経反応を基に検討した.

【方法】
デッドリフトにおけるバーベル挙上前後の自律神経反能の変化を「きりつ名人:(株)クロスウエル」で測定した.ISなしとISあり(カーボンタイプおよびワンコインタイプ)の条件下で本人の1回最大挙上重量の90%で試技を行った.

【結果】
試技は同一対象者で2回行った。対象者10名のうち、ISを好む群は7名であった。ISを好む群ではきりつ名人スコアがワンコインタイプIS装着では変化は無かったが、カーボンタイプIS装着により有意(p=0.0346)に増加した.一方、ISを好まない群ではワンコインタイプIS装着で低下する傾向を示した.

【考察・結論】
インソールが足蹠にフィットし使用感良好である場合には自律神経のバランスを調整し、運動機能を向上させる可能性がある.

【COI】
本研究は、インソールを製造販売している(株)BMZから奨学研究寄附金の助成を受けて実施した。

 

「ウエイトリフティング選手のトレーニング期間中の心拍変動の推移」
三好英次先生(東京国際大学 人間社会学部スポーツ科学科)

■三好英次、三宅敏博
東京国際大学 人間社会学部スポーツ科学科

【背景】近年、心拍変動(Heart rate variability: HRV)解析から算出される自律神経活動指標が、スポーツ選手の疲労や回復状態を客観的に評価する指標となりうる可能性が示されている。また日々のトレーニング負荷と心拍変動指標の推移との関連性を検証した研究も見られるが、ウエイトリフティング競技についての報告は少ない。
【目的】ウエイトリフティング選手のトレーニングに対する適応状態を把握できるか否かを検証することを目的に、トレーニング期間中のHRVを連日計測した。またトレーニング負荷量がHRV指標の変化に及ぼす影響について検証を試みた。
【方法】大学生女子ウエイトリフティング選手2名(Sub.A:19歳 69㎏級 競技歴6年、Sub.B:20歳 58㎏級 競技歴2年10ヶ月)を対象とした。Sub.Aについては2週間(1日1回のトレーニング)、Sub.Bは1週間(1日2回トレーニング)にわたり、起床時およびトレーニング前後の心拍を計測した。計測機器(Hosand製Minicardio PRO)を胸骨下縁部に貼り付け、安静仰臥位にて5分間計測した。取得データは専用ソフトウェア(TrainMe-Coach version 0.9.27.12)で解析し、lnRMSSD、lnHF、lnLF、LF/HFを算出した。期間中の毎日の練習において選手が行ったトレーニングをまずエクササイズ種目ごとに定量化し(重量(%1RM)×回数×セット数×種目別強度係数)、各トレーニングセッション内で行われた全種目の総和をTraining Impulse (TRIMP)として求めた。TRIMPとHRV指標のトレーニング前後の変化量との関係について、対象者個別にPear -sonの積率相関係数を求めた。
【結果】HRV指標は練習前に比べて練習後に減少し、翌朝に回復する傾向が見られた。TRIMPが多い時はHRVの減少が激しく、一方少ない時にはHRVの減少が小さいか、逆に上昇することもあった。Sub.AについてTRIMPとlnRMSSDの変化量との間で(r=-0.858 p<0.01)、またTRIMPとlnHFの変化量との間で (r=-0.841 p<0.01)それぞれ有意な負の相関が認められた。またSub.BについてはTRIMPとlnRMSSDの変化量との間で有意な負の相関が認められた(r=-0.739 p<0.05)。
【考察】HRV指標の推移から、トレーニング負荷による自律神経活動の減少と回復の様相を観察することができた。トレーニング負荷量が多い時ほど練習後の減少は大きく、副交感神経指標においてより顕著であった。ウエイトリフティング選手のトレーニングの適応状態を評価する指標として心拍変動が適用できる可能性が示唆された。今後は症例を増やすとともに、回復状態やパフォーマンスとの関連についても検討したい。

「夕方の激しいスポーツが夜間睡眠中の自律神経活動に及ぼす影響」-ウェアラブル脈波センサを用いた20代男性と30代男性の比較-
吉田豊先生(名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科)

■吉田豊1),湯田恵美2),早野順一郎2)

(1)名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科
 2)名古屋市立大学大学院 医学研究科 医学医療教育分野)

【目的】
夕方の激しいスポーツは夜間睡眠中の副交感神経活動を抑制させる.しかし,抑制された副交感神経活動が睡眠中に促進して心身が回復するか否かは定かでない.本研究では,夕方の激しいスポーツをした後の夜間睡眠中の自律神経活動を,ウェアラブル脈波センサを用いて20代健常男性と30代健常男性で比較した.
【実験方法】
対象は20代健常男性7名(23±2歳),30代健常男性8名(35±3歳,新栄フットサルアリーナ)で,20代グループは夕方ハンドボールを行い,30代グループは夕方フットサルを行った.ハンドボールは火曜日に行い,非運動日を金曜日とした.フットサルは日曜日に行い,非運動日を水曜日とした.ハンドボールの時間は休憩も含め約150分,フットサルは休憩も含め約90分である.試合開始前に活動量計 (Lifecorder GS,株スズケン)を腰に装着し,試合中の身体活動のエネルギー消費量(EE:energy expenditure) [kcal]を測定した.運動日と非運動日の夜間睡眠中の脈波を3軸加速度センサ内蔵・ウェアラブル光電脈波センサ(APM,株スズケン,プロトタイプ)を用いて測定した.
【解析方法】
脈波信号から脈拍間隔時系列を2Hzで算出した.就寝してから30分ごとに平均脈拍間隔(MPI)と心拍変動の高周波数成分振幅(HF_amp,0.15-0.45 Hz)に対応する指標を算出した.統計解析は,運動日と非運動日(condition),睡眠時相(phase)で心拍変動指標の有意差を調べるために混合モデルによる反復測定の2元配置分散分析を行った.
【結果・考察】
20代のMPIはcondition(P<0.0001)とphase(P<0.01)で有意差が認められた.また,HF_ampはcondition(P<0.05)とphase(P<0.05)で有意差が認められた.30代のMPIはcondition(P<0.0001)とphase(P<0.05)で有意差が認められ,HF_ampはcondition(P<0.0001)とphase(P<0.05)で有意差が認められた.運動中のEEの平均値と標準偏差は, 20代が444±151[kcal],30代が247±88[kcal]となった.
20代,30代共に,非運動日に対して運動日における睡眠中の副交感神経活動は抑制され脈拍が増加した.20代の副交感神経活動は睡眠後半から促進して心身の回復に向かった.

 

 

 

 

 

「日帰りヘルスツーリズムにおける妊娠後期女性の自律神経機能の変化の1例」
藤田小矢香先生(島根県立大学看護栄養学部)

■藤田小矢香、小田美紀子、林健司(島根県立大学看護栄養学部)

【目的】
日帰りのヘルスツーリズム「マイナスをプラスに転じる旅」を企画した。講話(マイナス思考をプラス思考にかえる話)、食事、陶芸体験、温泉浴を体験することにより、自律神経機能に及ぼす影響について科学的検証を行った。
【方法】
ヘルスツーリズム参加者17名のうち、妊娠37週 30代女性1名を分析対象とした。測定はヘルスツーリズムの前後で行った。自律神経機能検査は「きりつ名人」(株式会社クロスウェル:きりつ名人)を用いた。倫理的配慮は島根県立大学出雲キャンパス研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:187)
【結果】
結果を図に示す。ヘルスツーリズム前は安静CVRR(6.94)と着席ccvHF(3.80)は過剰で、安静ccvL/H (0.09)と⊿CVRR(-1.41)と⊿ccvL/H(-0.01)は低下していた。ヘルスツーリズム後には着席ccvHF(3.87)と安静ccvH/F(0.07)以外は、標準値を示した。
【考察】
自律神経活動はヘルスツーリズム後に標準値を示し、バランスはヘルスツーリズム後に改善傾向を示した。しかし、着席時の交感神経活動の過剰に変化はなかった。妊娠期は妊娠を継続維持するためにエストロゲンやプロゲステロンが非妊時より高い値を示す。エストロゲンやプロゲステロンの分泌は視床下部を介していくつものフィードバック機構によって、自律神経系による身体調整機構とも関連して様々な精神的・身体的変化を引き起こしている。今回の結果は妊娠維持のホルモンが影響している可能性がある。
【結論】
妊娠期は女性ホルモンの影響が自律神経機能に影響を及ぼすが、妊娠中の女性において本ヘルスツーリズムにより自律神経のバランスが改善傾向を示した。

 

「新卒看護師を対象とした自律神経活動の変化」 -就職1か月後と7か月後の比較-
川井美緒先生(和歌山県立医科大学保健看護学部)

■川井美緒1) 宮井信行1) 有田幹雄2) 1)和歌山県立医科大学保健看護学部 2)角谷リハビリテーション病院

新卒看護師は,看護技術の習得,職場の人間関係,患者および家族への対応,深夜業を含む勤務形態,残業,リアリティショックなどから仕事に対する心理的・身体的負担が大きく,強いストレス状態にあるとされている。また,これらを背景に,慢性疲労徴候,倦怠感,気力の減退,不安感,抑うつ感などの心身の変調を来しやすいと言われている.
 そこで本研究では,新卒看護師を対象として就職1か月後から7か月後にかけての自覚症状の変化を追跡調査し,ストレス状態,自律神経機能との関連を明らかにするとともに,それらがQOLに及ぼす影響について検討を行った。今回は、その中から自律神経活動の変化について報告する.
 対象者は,某県内の病床数800床以上の2つの総合病院に正規職員として雇用された新卒看護師の女性であった.このうち,研究参加に同意した方を対象に就職1か月後と7か月後に追跡調査を行った.本研究では,データの欠損や測定不備のない48名を分析対象者とした.
 起立負荷試験による自律神経活動については,CVRRにおいて起立時とその座位からの変化量(⊿)が7か月後に低下していた.一方、LF/HF比は、起立時において7か月後でやや高値になり、ccvHFは立位姿勢と着席時の両方で7か月後にやや低値となったが、有意な差は認められなかった.
 また、起立性調節障害の自覚症状との関連を検討した結果、自覚症状と自律神経活動の変調は、関連することが示唆された.

【はじめに】
慢性疾患運動療法では、無酸素性作業閾値(Anaerobic Threshold; AT)の強度での運動が推奨されている。ATレベルの設定には、換気性作業閾値(Ventilatory Threshold; VT)を用いるのが一般的であるが、VTを求めるためには呼気ガス分析を行わなければならない。近年、より簡便にATを求める方法として、漸増負荷運動中の心拍変動(Heart Rate Variability; HRV)が利用できるのではないかといわれている。そこで、本研究では漸増運動負荷中のHRVの周波数解析からATレベルが推測できるかどうかを検証した。
【対象】
健常な若年成人男性25名(平均年齢27.6 ± 3.5歳)
【方法】
自転車エルゴメータを用い、20W/分の直線的漸増運動負荷症候限界まで施行し、HRV解析(「Reflex名人@」(クロスウェル社)を使用)と呼気ガス分析を運動負荷試験中に同時に行った。
【結果】
副交感神経活動の指標である高周波成分(High Frequency Power; HF)は、全ての被験者において運動負荷開始とともに徐々に低下し、その後運動強度が増加しても低下せずに一定となった。この運動負荷量が増加してもHFが変化しなくなるポイントをHFの閾値(HRVT-HF)とし、HRVT-HF時と呼気ガス分析より求めたVT時のV(・)O2と心拍数を比較したところ、両者には正の相関が見られたが、前者の方が後者よりも高かった。
【まとめと今後の展望】
本研究の結果より、HRVの周波数解析、とくにHFの変化からATレベルを推測できることが明らかになった。ただし、HRVT-HF時の運動強度や心拍数をATレベルの指標としてそのまま用いると過大評価になってしまうので、回帰式を用いた補正が必要である。
HRVの周波数解析装置は、呼気ガス装置に比べ安価で大きなスペースを必要としないため、呼気ガス分析装置を有していない施設においても導入しやすいと考えられる。今後、女性、高齢者、有疾患者において、あるいはトレッドミルを用いた多段階運動負荷方式でのプロトコルにおいても本研究と同様の結果が得られれば、ATレベル設定におけるHRVの有用性を確立でき、HRV周波数解析装置の汎用化につながると思われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「心拍変動解析を利用した組織活性化の提案」
尾崎夏穂様(富士ゼロックス株式会社 研究技術開発本部 コミュニケーション技術研究所)

■尾崎夏穂,三井実, 河野克典
富士ゼロックス株式会社 研究技術開発本部 コミュニケーション技術研究所
【目的】 

 心拍変動解析は個人の健康の評価やスポーツのパフォーマンス向上の目的で使用されている。我々は、企業の従業員の心拍変動を解析し、従業員の集合である組織の活性状態を評価する試みを行った。
本稿では、この評価法により可視化した指標を使い、組織活性化を試みた。その実践内容と指標変化を示す。

【方法】
 富士ゼロックス関連会社において、3拠点 計85名の従業員にウェアラブル生体情報センサ(ユニオンツール社 myBeat)を装着し就業時間中の心拍間隔データを測定した。①起立負荷テスト、②一日の業務時間における心拍データ、③チームでの対話時の心拍データを測定し、それぞれを①従業員の健康、②従業員元気度、③チーム共感の指標とした。

 これら指標を従業員にフィードバックし、従業員が課題に気づき組織活性化行動が進むかどうかを検証した。
具体的には、3月に測定し、その結果を従業員に共有した。その後、働いて健康となるというテーマの対話ワークショップを実施し、個々の組織活性化行動を醸成した。三ヶ月間の活性化行動を行ったのちに、再度心拍情報を取得した。
【結果】
 2018年3月の測定と同年6月の再測定の結果を図に示す。健康・元気度・チーム共感、全ての要素において6月のスコアが高いことがわかる。

 一連の活動による変化をアンケートで調査した。具体的な声としては、「業種間の協力体制がよくなった。仕事が進めやすくなった。」「周りをよく見るようになった。」「いつも話さない人とコミュニケーションがとれるようになった。」など組織の変化を実感する声があがった。ヒアリング結果は、チーム共感のスコアが向上していることを支持している。
【考察】
 心拍変動解析を利用した経営環境の可視化(測定)、組織の現状把握(診断)、そして適切な施策(処方)を行うことで、組織活性化が自発的に起き得ることが示唆された。
 今後は施策の効果確認、自律神経解析方法の検討など、引き続き検証を進める。

 

「心拍変動解析による組織状態の診断」
■早野順一郎† 三井 実‡ 尾崎夏穂‡ 河野克典‡ 湯田 恵美† †名古屋市立大学大学院医学研究科 ‡富士ゼロックス株式会社

 就労中のウェアラブル生体情報センサから得られる生体情報データの効果的な加工法および活用法の開発のための基礎的知見を得る目的で、生体情報データの特徴、介入による変化、質問紙への反応との関係を分析した。職場の状況に関する質問紙に対する反応と勤務中の生体情報との関連を分析した結果、仕事における裁量性が高い人ほど、心拍変動の大きさを反映するR-R間隔の標準偏差、超低周波数(0.0033-0.4 Hz)成分の振幅、低周波数(LF,0.04-0.15 Hz)成分の振幅が小さく、精神的なイライラや疲労が高く、上司や同僚とのコミュニケーションが悪い人ほど、LF振幅やLF振幅の標準偏差(LFsd)が高かった。質問紙に対する反応を因子分析した結果、ストレス度、抑うつ度、疲労度を反映する3つの因子が抽出された。今回抽出された因子の中では、LF振幅やLFsdが疲労度と相関していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****交流会会場*****

自律神経機能を みる ×しる ×心豊かにくらすをテーマに各分野の先生方にご協力いただき研究内容を掲示し、ご交流いただきました。
また、今年は森林セラピーの体験写真コーナーとともにヒノキなどの

ポスター掲示のみならず当日多くの皆様にご参加いただき、活発な意見交換で会場が大いに盛り上がりました。

■ポスター掲示
ポスター掲示について、さまざまなジャンルでの可能性を感じました。研究の参考になりました。刺激になりました・・・・。
ご発表くださった先生からは、いろいろな方からご質問いただいたり意見をいただくことができよい機会となりました・・・・などのご意見をいただきました。

 

 

 

 

 

 

 

■きりつ名人ヘルスケア体験コーナー

第一部に引き続き交流会でも一人で気軽にストレスチェック可能なきりつ名人ヘルスケアを体験いただきました。

■meiji体験コーナー 

今年のmeijin体験コーナーでは、森林セラピー(島根県飯南町)の体験写真とともに、ヒノキなどの香りを嗅ぎながら測定できるコーナーを設けました。
香りはアロマクエスト株式会社様にご協力いただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

■ドリンクコーナー

交流会を活性化したいという思いをこめて、飲み物(ハーブティー)と自律神経が活性化するといわれているカレーパンなどをご用意しました。
今回カレーパンは金沢八景のベーカリーハウスアオキ様に届けていただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■書籍の紹介コーナー

meijin倶楽部ご賛同の先生方の自律神経に関する書籍をご紹介。

 

 

 

 

 

 

 

■企業展示・発表 (敬称略)
株式会社エー・アンド・デイ
株式会社クロスウェル
富士ゼロックス株式会社
ユニオンツール株式会社

 

協賛企業の皆様の企業展示・発表で会場は盛り上がりました。

 

■BGM
音楽によって自律神経は変化します。今回BGMにもこだわってみました。

【音楽の自律神経への影響】
自律神経の活動は、音楽によって覚醒と鎮静の両方向に変化することが、非常に古くからのさまざまな研究でわかっています。基本的には、テンポが速くリズムや旋律が複雑な覚醒的音楽では、心拍や筋肉の緊張の増加がみられ、反対に、テンポが遅くリズムや旋律が単純な沈静的音楽では、心拍や筋肉の緊張の減少、皮膚温度の増加、皮膚電気伝導の増加がみられます。2012年にアメリカで行われた、11の研究のメタ解析でも、音楽療法を受けた群は受けなかった群と比較して、音楽療法の後で収縮期血圧と拡張期血圧の顕著な低下と、心拍数の顕著な減少がみられたことが示されています。

【使用した音楽】

<ヴァイオリン協奏曲集 四季>

ヴィヴァルディによって1725年に出版された「和声と創意の試み」作品8という協奏曲集(全12曲)の第一番から第四番が「四季」である。
「四季」を構成する4曲には、それぞれ「春」「夏」「秋」「冬」の標題と、四季の自然とそこに生きる人間の営みを歌った作者不詳のソネット(十四行詩)が付けられている。ヴィヴァルディは、その叙事詩に歌われたさまざまな情景や具体的なエピソードを、ソロ協奏曲の整然たる構成の中で、リアリスティックに描写している。四季の移り変わりを標題音楽のテーマとすること自体は決してヴィヴァルディの専売特許ではないが、協奏曲の枠の中で成し遂げたという点で画期的な作品ということができる。
「四季」の特徴を簡単に記すと、「春」は、第一楽章で新しい春の訪れを迎える喜びが表現され、第二楽章では草原に横たわってまどろむ羊飼いが描かれる。第三楽章では、輝く春の素晴らしい空のもとで、乙女たちも羊飼いもひなびた牧笛の陽気な調べに合わせて踊る。「夏」は、「春」が明るいホ長調で書かれているのに対して、暑さの厳しいいやな季節としてト短調で描かれる。第一楽章は強い日差しに人も家畜もあえぐさまや、はげしい嵐を恐れ不安におののく村人の嘆きが表現されている。第二楽章では、疲れた羊飼いに蝿や虻の群れが襲いかかる場面が描かれている。第三楽章は「夏のきびしい季節」の副題をもち、吹きすさむ嵐、とどろく雷鳴がドラマティックに描写される。「秋」は、豊作の喜びにわく農民たちの祭りの雰囲気や狩りの情景が明るいト短調でいきいきと描かれる。第一楽章の「村人たちの踊りと歌」では村人たちが豊作の祝い酒に酔って、眠り込むまでが描写されている。第二楽章は「眠る酔っ払いたち」の副題をもつ。人々が眠る静かな秋の夜の情景である。第三楽章では、角笛や鉄砲の音、猟犬の吠える声など勇壮な狩りの情景が活写されている。「冬」は、第一楽章で一面雪と氷に覆われた冬の凍てつく寒さ、寒さに歯がカチカチと鳴る様子などが表現される。第二楽章では戸外に降る雨、暖かい暖炉に憩う幸福が歌いあげられており、「四季」の中でもっとも美しい叙情的な楽章といわれる。第三楽章では、氷の上を小走りに行く人が滑って転倒するさまや、春の訪れを先触れする南風と北風の争いが描かれている。

<引用・参考文献>
Loomba RS, Arora R, Shah PH, et,al. . Effects of music on systolic blood pressure, diastolic blood pressure, and heart rate: a meta-analysis. Indian Heart J. 2012 ;64(3):309-13.クラシック名曲ガイド①~③ 音楽之友社 1994, 1995クラシックの名曲100選 宮本英世 音楽之友社 1994

音楽監修:酒井博美
国立音楽大学音楽学部楽理学科卒業,日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻修了(修士・心理学),東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻内部障害学分野博士後期課程修了(博士・障害科学).専門学校,大学,大学院で心理学分野の非常勤講師.

■第2セッション   座長 黒岩義之先生(帝京大学溝口病院・脳卒中センター長、横浜市立大学・名誉教授、日本自律神経学会・前理事長)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「電子的自律神経制御による循環器疾患治療への取り組み」
~“制御名人”への道~」 朔 啓太先生(九州大学 循環器病未来医療研究センター・助教)

■朔 啓太 (九州大学 循環器病未来医療研究センター)

 重力やストレス、運動など多くの外乱が日常生活には存在しているにも関わらず血圧は一定レベルに保たれている。一方で、脈拍は適切にばらついていることが健常の証である。これらは、自律神経による循環調節機構によって理解することが可能である。特に血圧は動脈圧反射による強力な負帰還制御によりその変動がある範囲に収まっており、動脈圧反射機能の低下はあらゆる循環器疾患が悪化することも知られている。つまり、健常なヒトは血圧の「制御名人」と言える。
我々は、これまでに工学的な枠組みを用いて、交感神経や迷走神経の循環パラメタ(血管抵抗、心機能、脈拍および循環血液量)における寄与度や調節速度を明らかにしてきた。その研究の一つのゴールが、電子的自律神経制御による循環器疾患治療の試みである。例えば、動脈圧反射受容器を電気刺激することで交感神経を介して任意の血圧と血圧変動を作り出すことが可能となる。実際に、動脈圧反射不全のラットに対して血圧をフィードバックさせながら、動脈圧反射の求心路神経や遠心路神経を電気刺激することによって、動脈圧反射不全になる前と同様な血圧調節を再建することができる。このような技術は、将来的に現時点で治療法がない血圧変動異常に応用できる可能性がある。
本セッションでは、動脈圧反射の話題を中心に循環器領域における電子的自律神経制御治療について紹介をしていきたい。

 

「起立耐性における筋交感神経活動の意義」 岩瀬 敏先生(愛知医科大学生理学・教授)

岩瀬 敏(愛知医科大学生理学)

 「人間は血袋である.」これは新撰組三番隊長斎藤一の言葉とされる.彼は1915年,大正の世まで生きた.彼が晩年,藤田五郎として警視庁警部となり東京高等師範の剣術指導をしたときの言葉らしい.ゴム袋に液体(血でなくてもいいのだが)を詰め,空中にぶら下げる.そうすると,重力によりゴム袋の中の液体は下方へ貯留する.
 重力とは,地球とその上にあるすべての物体との間に働く引力である.地球上のヒトも同様に重力により足の方向へ血液が溜まる.ヒトは他の動物と違って直立二足歩行をするようになったのは,500万年前とも700万年前とも言われている.地球40億年の歴史から見れば,つい最近のできごとではあるが,以来,ヒトはこの重力とずっと戦い続けている.
 ヒトが臥位から立位になると,上述のように下半身へ体液,つまり血液を含むヒトの液体成分が移動する.ヒトの血液の中にはヘモグロビンが含まれ,それにより身体中のすべての組織は酸素を受け取り,それをエネルギーであるATPに変え,生命の営みを続けている.地球上では,ヒトは常に1Gの重力を受けている.そのため,臥位から立位への起立で,上半身の血液が下半身に移動し,静脈潅流が低下して,頸部の圧受容器における血圧が低くなる.それを代償しようとして全身の交感神経活動が賦活化する.そのままだとヒトがヒトであるための器官である脳への血流が低下してしまうので,交感神経活動が働き,心拍数を上げ,末梢血管を収縮することで,脳への血流を保持する.そのどこかが破綻することにより,起立性低血圧,失神が起こるわけである.
 一方で,神経調節性失神,vasovagal syncope, 体位性頻脈症候群POTSの機序は,異なる.臥位から立位への体位変換に伴う体液移動で,循環血液量が少なすぎた場合,下半身貯留が多すぎた場合,心拍数の反応がよすぎた場合,左室壁のnociceptorの感受性が高すぎた場合,Bezold-Jarisch反射が生じ,交感神経の抑制と迷走神経の賦活化が起き,低血圧,ひいては脳循環不全のための失神を来す.
以前から筋交感神経活動を各種環境下においてマイクロニューログラフィにより記録していた経験から,この筋交感神経活動が,起立耐性にどのように影響するかを研究してきた.その経験から,失神に至るまでの筋交感神経活動の変化を解析することで,orthostatic hypotensionとvasovagal syncopeの違いについて,前者が交感神経の賦活化不足,後者が交感神経の過剰賦活化と,同じ起立性低血圧でも機序が異なることを前から主張している.
 そのような1Gの重力が失われた場合,無重力における順応の後に,1Gの環境に戻ると,同様に低血圧や失神が起こることが知られている.この機序についても,宇宙医学研究をもとに述べる予定である.
さらに,失神に間違えられやすい食後性低血圧,てんかん,体位変換性頻脈症候群POTSとの鑑別についても言及する.

総括として

「ストレス反応の脳科学」黒岩義之先生(帝京大学溝口病院・脳卒中センター長、横浜市立大学・名誉教授、日本自律神経学会・前理事長)

■黒岩義之1)、平井利明2)

1)帝京大学溝口病院・脳卒中センター長、横浜市立大学・名誉教授、日本自律神経学会・前理事長
2)帝京大学溝口病院・神経内科准教授

ストレスには多様なスペクトラムがあり、急性ストレス・慢性ストレス、快適ストレス・不快ストレス、外的環境ストレス・内的環境ストレス、身体ストレス・心理ストレスに分けられる。視床下部や消化管には、外的・内的環境ストレスを感知するG蛋白共役受容体とイオンチャネル・センサーがあり、いわゆる「脳腸相関」の生物学的基盤を構成する。陽イオンチャネルであるTRPチャネルは痛みセンサー(TRPV1)、心筋のメカニカルセンサー (TRPV2)、樹状細胞の病原体認識センサー(Toll-like レセプター)などに関与、生命の根源に関わるポジションにある。カンナビノイド受容体はストレス反応においてTRPチャネルとバランスをとる役割を果たす。脳室周囲器官、視床下部、脈絡叢はストレス・シグナルが通る脳のセキュリテイ・ゲート(window of the brain)である。このセキュリテイ・ゲートはG蛋白共役受容体、TRPチャネル、グリア・血管内皮細胞網を持ち、時計中枢機能、センサー機能、分泌機能の3系統を支配する。ストレス・シグナルを伝達し、ストレス反応を起こすパスウェイは神経パスウェイ(自律神経系)、液性パスウェイ(内分泌・免疫系)、遠隔信号パスウェイ(バイオ・タイマー系)の3つからなる。視床下部・脈絡叢をセンターとする遠隔信号パスウェイは中枢・末梢生体時計を同期させるシステムである。ストレス反応制御はテロメア損傷、老化、発癌の予防につながる。ストレスから命を守るために、テロメアを保つ方向性で生活スタイルを改善させることが重要である。生体の恒常性をストレス攻撃から守る視床下部・脳室周囲器官コンプレックスの制御破綻(G蛋白質機能の攪乱)によって複雑な体調不良(睡眠障害・内臓の自律神経症状、内分泌・免疫障害、疲労、記憶障害、疼痛、感覚過敏など)が起こる。これが「視床下部症候群(脳室周囲器官制御破綻症候群、G蛋白質機能攪乱症候群)」である。この症候群へのチャレンジは「不定愁訴の医学」というパンドラの箱を開ける突破口になる。ストレス反応の本態を突き止めるには「枝」(ヒト)ではなく、樹木全体(生命系全体)を観ることが大切である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


閉会挨拶
  藤井智恵子(臨床自律神経機能Forum事務局 株式会社クロスウェル)

 

 

 

 

司会  有村知里様 (有村コンサルティングオフィス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受付
井出桃先生(神奈川歯科大学短期大学部特任教授)
林辺淳子先生(神奈川歯科大学)
関端麻美先生(神奈川歯科短期大学)

■お忙しい中全国各地からお越しいただきありがとうございました。

■協賛企業の皆様 ありがとうございました。(敬称略)

・株式会社エー・アンド・デイ
・株式会社ヴェルツ
・コニカミノルタ株式会社 BIC Japan
・日本メドトロニック株式会社

・バイオトロニックジャパン株式会社
・富士ゼロックス株式会社
・フクダ電子株式会社

・ユニオンツール株式会社

■会場設営では川崎市産業振興財団の皆様に大変お世話になりありがとうございました。

 

お陰様で平成30年11月17日(土)第1回臨床自律神経機能Forumを盛会のうちに終えることができました。座長・講師の方、ご参加いただきました皆様、協賛企業の皆様、有志の皆様、ご協力いただきました全ての皆様にお礼申し上げます。

臨床自律神経機能Forum 事務局 株式会社クロスウェル 藤井智恵子