「第1回臨床自律神経機能Forum」抄録

■賈添天1), 小川佳子2), 三浦美佐3), 伊藤 修1), 上月正博1)

1) 東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野 2) 帝京大学医療技術学部スポーツ医療学科
3) 筑波技術大学保健科学部保健学科理学療法学専攻

Music Attenuated a Decrease in Parasympathetic Nervous System Activity after Exercise

【背景と目的】
継続的な運動(運動療法)は、心大血管疾患患者の自律神経系のアンバランスを改善するが、単回の運動は交感神経活動を亢進し副交感神経活動を低下させる。運動終了後には運動を終了すると、運動中には低下していた副交感神経活動が急激に回復するが、この回復反応は心臓へのストレス回避のための反応であり、回復反応の遅れは運動後の致死性の不整脈の発生や心臓突然死と関連している。したがって、運動を安全に行う上で、運動後の副交感神経活動の回復を高め、運動に伴う心臓へのストレスを減らすことは非常に重要である。
一方、音楽は、自律神経活動を調整すると言われており、特に、気分を落ち着かせるような音楽は副交感神経活動を高めることが明らかになっている。そこで、本研究では、気分を落ち着かせるような音楽を聴きながら運動することにより、運動後の副交感神経活動を高めることができるかどうかを検討した。

【対象】
健康な若年成人(男性 12名、女性 14名、平均年齢 27.9±0.7歳)

【方法】
(1)何もしないで座っている(安静セッション)、(2)被験者自身が選んだ気分を落ち着かせるような音楽を聴きながら座っている(音楽セッション)、(3)「ややきつい」と感じるくらいの自転車こぎ運動を行う(運動セッション)、および(4)音楽を聴きながら自転車こぎ運動を行う(併用セッション)という4つのセッションをそれぞれ別の日に15分間行い、セッション前後の自律神経
活動を心拍変動解析ソフト「きりつ名人®」(クロスウェル社)
を用いて測定した。

【結果】
音楽セッションでは、セッション終了後の副交感神経活動が有意に増加し、運動セッションではセッション終了後の副交感神経活動が有意に低下していましたが、音楽を聴きながら運動した併用セッションでは、セッション終了後の副交感神経活動は介入前の値とほぼ同じであった。なお、交感神経活動にはセッション前後およびセッション間の有意差はなかった。

【考察と今後の展望】
本研究の結果は、被験者自身が選んだ気分を落ち着かせるような音楽が運動による副交感神経活動の低下を和らげたことを意味している。本研究は、音楽が運動後の副交感神経活動に良い効果をもたらすことを科学的に明らかにした初めての報告であり、音楽と運動を併用することでより安全に運動を実施することができることが明らかになったことにより、より積極的な運動あるいは運動療法の実施につながると思われる。
また、今回は音楽と運動の併用の単回の効果を検証したが、今後、併用療法を長期的に繰り返すことにより、音楽療法あるいは運動療法それぞれ単独よりもより大きな効果が得られる可能性も考えられ、心血管疾患のみならず様々な疾病に対する新しいリハビリテーションプログラムの確立につながることが期待される。

■きりつ名人 関連論文
Music Attenuated a Decrease in Parasympathetic Nervous System Activity after Exercise
Jia T, Ogawa Y Miura M, Ito O, Kohzuki M., PLoS ONE 11 (2), 2016