起立負荷試験検査の現状報告:基準値としての可能性
「第1回臨床自律神経機能Forum」抄録
■有田幹雄、宮井信行、内海みよ子、志波 充、竹下達也 和歌山県立医科大学
【背景】
自律神経障害の一つである起立性血圧調節障害は高齢者や糖尿病患者でその頻度が増加し、臓器障害の進行と長期的な生命予後の悪化に関連するとされている。起立性低血圧の詳細な検討にはチルトテーブルを用いたヘッドアップチルト試験が用いられているが、最近は日常診療で簡便な検査として、安静5分後、1-2分の座位から能動的に起立後1-3分後の血圧を測定することが普及しつつある。
【目的】
日常診療で簡便な検査として、安静5分後1-2分の座位から能動的に起立後2分後の血圧・脈拍を測定し、その血圧・脈拍変化や自律神経系の指標の基準値を作成する。
【対象・方法】我々が実施している地域疫学研究の対象集団6285人(40歳~75歳)の中から、起立時の血圧変動と自律神経反応を測定した2217名(男性959名、女性1258名)のデータから、基準値の設定を行った。このうち高血圧や糖尿病などの疾患のあるもの1282名を除いた935名(男421:女514)の正常人を対象とした。自律神経反射を簡便な手法である座位から立位にした際の血圧変化を観察した。起立負荷は座位2分、立位2分、座位1分の簡便法で行った。検査中は血圧、心拍を1分おきに自動測定するとともに、RR間隔変動係数(CVRR)、交感神経指標(LF/HF)、副交感神経指標(CCVHF)を記録し、自律神経機能を評価した。
【結果】
安静時収縮期血圧(SBP)は122.0±14.7mmHg、起立負荷時119.3±10.8mmHgであり、ΔSBP (起立時-安静時)は-3.5±10.8mmHgであった。加齢に伴いSBP、脈圧は有意に増加した。一方、ΔSBP,Δ脈圧は加齢に伴い有意に減少した。心拍数は安静時、起立時有意な変化は見られなかったが、ΔHRは年齢と共に減少した。CVRR,起立時CVRR,ΔCVRRは年齢に伴い有意に減少した。安静時CCVL/Hは年齢による変化は見られなかった。CCVHFは安静時、起立後の着席時ともに加齢に伴い有意に減少した。
【考察】
血圧は40歳から75歳まで、加齢に伴い上昇し脈圧も増加した。起立負荷に伴う血圧の降下度は加齢により増加した。安静時交感神経指標は年齢と関連を示さず、起立時交感神経反射は年齢と共に減少した。副交感神経指標は安静時、起立後の着席時ともに年齢と共に減少した。自律神経活動全体は安静時、起立時ともに年齢と共に減少した。正常人の起立時交感神経反射・副交感神経反射の年齢的な変化を解析し、年齢ごとの基準値を作成することにより今後の臨床的な応用が期待される。