着衣センサによる運転中の呼吸モニタリング
湯田 恵美1), 吉田 豊2), 早野順一郎3)
1) 東北大学大学院工学研究科 2) 名古屋市立大学芸術工学研究科
3) 名古屋市立大学大学院医学研究科
【目的】 心電図や脈波などによるドライバーの眠気検出が試みられているが,運転中に安定した信号を得ることは容易でない.そこで本発表では,比較的安定した記録が可能な着衣センサによる呼吸モニタから得られる信号によって運転中の眠気の検出が可能かどうか検討した.
【方法】 健常被験者7名(男性5名,女性2名,45±9歳)を対象として,自動車運転中4 – 24hの心電図,呼吸曲線,身体加速度を計測した.心電図,呼吸曲線,身体加速度の計測にはシャツ型ウェアラブルセンサであるHexoskin(Carre Technologies社,Canada)を用いた.Hexoskinはウェアとロガーから構成され,計測した生体データは,ウェアポケット内のロガーに保存された.ウェア裏面には心電図を計測するためのセンサー(電極)が付されている.ロガータイプは48時間分のデバイスを使用して,計測データはクラウド上にアップロードした.クラウド上に保存したデータをインターネットブラウザからアクセスして,Open Data APIを使用することで心電図,呼吸曲線,身体加速度のCSVデータをダウンロードし,分析ソフトウェアVitalRecorder(キッセイコムテック株式会社,長野県)を用いて後解析を行なった.各生体信号のサンプリング周波数は,心電図アナログ256Hz,呼吸アナログデュアルチャンネル128Hz,加速度アナログ3D 64Hzである.また,ホルター心電計Cardy 303 pico+(スズケン社,愛知県) を用いて,データの欠損や破損に備えて心電図および身体加速度データのバックアップを行なった.バックアップのサンプリング周波数は,心電図アナログ128Hz,加速度アナログ31.25Hzとした.眠気検出手法は,心電図から眠気を推定するDip & Wave法(Hayano J et al, 2018)を用いた.
【結果】 Hexoskinから得られた心拍変動および呼吸曲線データの1例を図1に示す.また,呼吸曲線及び心拍変動指標における周波数解析の結果(24時間データの1例)を図2に示す.
【考察】 運転中にHexoskinから得られた心電図は測定時の体動や衣服のずれが原因と思われるノイズが多く,心拍変動推定は安静や睡眠中に限られることから,低周波ノイズによる影響を最小限に抑える工夫やノイズを除去するためのフィルタリング手法を適用して解析精度を向上させる必要がある.データバックアップに用いたホルター心電計データと比較したところ,心電図においては睡眠時以外の相関が低い結果となった.運転中は比較的体動が少ないものの,ハンドルの動き等でノイズが混入したと考えられるため,Dip & Wave法からの推定が困難であった.測定データに含まれるノイズは Kalmanフィルタで低減できる可能性がある.短時間の測定データで解析を可能とするため,有効性の検証を行ったうえで,安静測定が困難なドライバの呼吸曲線から眠気を連続的に推定するアルゴリズムが必要である.
【結論】 本研究では,心電図を用いた眠気指標Dip & Waveの検出が難題であったことから,呼吸曲線を用いた眠気の定量的推定は困難であった.しかし,バックアップに用いた心電図・身体加速度波形から眠気を検出し,呼吸曲線と時系列を合わせて解析することで一定の効果が期待できるものと思われる.心拍変動指標と呼吸曲線からドライバの眠気を推定する手法として,短期変動および長期変動に着目した解析を行うなど,今後さらなる工夫が必要である.