原田和昌
東京都健康長寿医療センター循環器内科

高齢者の高血圧は、一般的に収縮期高血圧、白衣高血圧、夜間非降圧型(non-dipper)、早朝の昇圧 (morning surge)例の増加などが特徴的であるが、それに加えて血圧動揺性が増大し、起立性低血圧や食後血圧低下の増加がしばしばみられる。その機序として、頸動脈の動脈硬化による頸動脈洞反射の減弱や、昼夜における交感神経、副交感神経のアンバランスなどが推定されてきた。最近、健康な状態と要介護状態の間の状態として、フレイルが定義され、2020年4月よりフレイル検診が開始されることとなった。身体的フレイルは体重減少、筋肉の量と質の低下、身体活動レベルの低下が中心であるが、それ以外にも無症候性脳梗塞、白質病変、転倒しやすさ、心血管疾患による一回心拍出量低下、炎症、動脈硬化、慢性腎臓病(CKD)などが関与する複雑な概念である。高齢者に多い起立性低血圧が将来の認知症発症と関係すること(Three-City Study Cohort)、また、食後低血圧は無症候性ラクナ梗塞と関係することが報告された。無症候性ラクナ梗塞は白質病変とともにSVD(small vessel disease)として認知症との関係が言われており、血圧動揺性と脳血管の血流調節能の障害が関与する。そこで、当センターで外来通院中の患者64人(平均年齢74歳)において起立性低血圧と自律神経機能を起立名人により調べたところ、18人(28%)に起立性低血圧を認めた。起立性低血圧群で左室の一回拍出量が有意に低く、大動脈のスティッフネスが高かったが、安静時血圧や自律神経機能に有意な差を認めなかった。他方、レビー小体病などでは自律神経機能の障害から、食後低血圧、認知機能の低下を引き起こすと考えられるが、血圧の精密なコントロールにより認知機能を改善できた。また、高齢者215人(平均年齢78歳)において起立性血圧変動やフレイルが転倒リスクに及ぼす影響を調べたところ、年齢や血圧は高齢者の転倒とは関連がなく、転倒は主としてフレイルの重症度に規定された。以上のように高齢高血圧患者のフレイル・認知症を予防する個別治療に心拍変動解析は重要と考えられる。