― 安静時HRVと周波数解析から見えてきたこと ―
前回の記事では、起立負荷が注目されている背景についてご紹介しました。
安静時の心拍変動(HRV)は、そのときの状態を知るうえで大切な情報です。
一方で、実際にデータを見ていると、
安静時の数字だけでは見えにくい違いがあるのではないか
と感じることがあります。
今回、きりつ名人のデータを整理していく中で、安静時の変動量だけでなく、
- 周波数解析
- 起立時の反応
をあわせて見ることで、別の見え方が立ち上がる可能性が見えてきました。
今回は、その考え方をシンプルにご紹介します。

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HRVを見るとき、まず何がよく使われているのか
心拍変動(HRV)の評価では、SDNN や RMSSD が世界的によく使われています。
これらは、安静時のゆらぎの大きさを見るうえで、とても大切な指標です。
実際、私たちが使っている指標の中でも、
- CVRR は SDNN に近い側面
- CcvHF は RMSSD に近い側面
を持つことが、これまでの解析でも確認されています。
つまり、安静時の変動量を見ること自体には、十分に意味があります。


ただ、安静時の数字だけでは見えにくいことがあります
安静時の数字は、その人の状態を知るうえで大切です。
ただ、自律神経は本来、
じっとしているときだけ働いているわけではありません。
たとえば、
- 立ち上がるとき
- 朝、動き始めるとき
- 緊張するとき
- 疲れているとき
体はそのつど、
血圧や心拍、自律神経のバランスを調整しています。
そのため、
安静時には見えにくい違いが、動いたときに現れる
ことがあります。
今回見えてきたのは、「安静は良好でも、立つと反応が強い」パターンでした
今回の解析では、
安静時の状態を表す CVRR と、
起立時の交感神経反応をみる ΔCcvLH を組み合わせて見てみました。
すると、
安静時には比較的良好に見えるのに、
立ったときに交感神経反応が強く出る
というパターンが見えてきました。
これは、安静時の数字だけを見ていると、
気づきにくい特徴です。
背景の異なる方々のデータを見ていく中でも、
こうしたパターンは一定数みられました。
つまり、
「静かにしているときの状態」と
「動いたときの反応」は、同じことを見ているわけではない
可能性があります。
ここで大事になるのが「周波数解析」です
HRVには、
単に「ゆらぎの大きさ」を見るだけでなく、そのゆらぎの中身をみる視点 があります。
それが、周波数解析です。
周波数解析では、心拍のゆらぎを成分ごとに分けて見ることで、
- 副交感神経寄りの変動
- 交感神経寄りの反応
- バランスの変化
などを、別の角度から見ることができます。
きりつ名人*の指標として使っている
- CcvHF
- CcvLH
といった指標は、こうした「ゆらぎの中身」や「切り替わり」を見るうえで役立つ指標です。


SDNN・RMSSDだけでは見えにくいことがある理由
SDNN や RMSSD は、とても大切な指標です。
ただ、それらは主に
安静時に、どれくらいゆらいでいるか
を見ることが中心になります。
一方で、周波数解析や起立時反応を加えると、
どんなふうに切り替わったか
どんな反応の仕方をしたか
を見ることができます。
つまり、
- 安静時の量
- 反応の出方
- ゆらぎの中身
をあわせて見ることで、
より立体的に捉えられる可能性があります。
この見方は、研究にも現場にも広がる可能性があります
今回の結果は、特定の診断や背景を言い切るためのものではありません。
むしろ、
安静時のHRVだけでは見えにくい違いが、
周波数解析や起立時反応を加えることで見えてくる可能性がある
という点に、研究としての面白さがあります。
この見方は、たとえば
- 睡眠
- 疲労
- ストレス
- 復職支援
- 学生支援
- 介入前後評価
など、さまざまなテーマに展開できるかもしれません。
もし、問診や主観評価だけでは捉えにくい違いを見たいのであれば、
この視点はかなり相性がよいように思います。
まとめ
今回のデータから見えてきたのは、
- 安静時の SDNN / RMSSD だけでは見えにくい違いがある
- 周波数解析を加えることで、“ゆらぎの中身” が見えてくる
- 起立時反応を加えることで、“どう切り替わるか” が見えてくる
- その結果、安静時だけでは気づきにくいパターンが立ち上がる可能性がある
ということでした。
HRVを見るとき、安静時の数字はとても大切です。
そのうえで、
“立ったときにどう反応するか”
“そのゆらぎの中に何が含まれているか”
まで見ることで、
見え方が変わることがあります。
きりつ名人の面白さは、
単に数字を出すことではなく、
安静時の状態と、動いたときの反応をあわせて見られること
にあります。
もし今扱っているテーマの中で、
「安静時だけでは何か足りない」
「もう一つ客観的な見方がほしい」
と感じているなら、
この見方は、研究や活用のヒントになるかもしれません。
参考
参考文献
- Task Force of the European Society of Cardiology and the North American Society of Pacing and Electrophysiology.
Heart rate variability. Standards of measurement, physiological interpretation, and clinical use.
Eur Heart J. 1996;17(3):354–381.
▶ PubMed:PMID: 8737210 - Shaffer F, Ginsberg JP.
An Overview of Heart Rate Variability Metrics and Norms.
Front Public Health. 2017;5:258.
▶ PubMed:PMID: 29034226
▶ Full text:Frontiers本文を見る - Gronwald T, Schaffarczyk M, Hoos O.
Orthostatic testing for heart rate and heart rate variability monitoring in exercise science and practice.
Eur J Appl Physiol. 2024.
▶ PubMed:PMID: 39259398 - Hernández ら.
Responses to active stand test predict 12-year incident cardiovascular disease and mortality.
Communications Medicine. 2025/2026公開。
▶ 論文ページ:Nature Communications Medicineで見る
今回のグラフデータについて
本記事に掲載した図表は、きりつ名人による測定データをもとに、個人が特定されない形で整理・解析した社内資料 に基づいて作成しています。(解析対象:n=717)
なお、本記事で用いている比較群は、
厳密な診断分類を目的としたものではなく、測定時の背景に基づいています。
健常群:企業・自治体等での測定に参加した方を中心とする群
(日常的な疲労やプレゼンティーイズムの影響を含む可能性があります)
背景あり群:心身の不調や疲労などを背景に、通院や支援、復職支援等を受けている方を含む群
そのため、本記事の比較は、特定の診断を明確に分けることを目的としたものではなく、現場でみられる“背景の違い”によって、どのような傾向が見えうるかを見るために用いています。
補足|今回出てきた主なHRV指標
■ 時間領域指標(拍ごとのゆらぎの大きさを見る)
| 指標 | 主に見ていること | 簡単な考え方 |
|---|---|---|
| SDNN | 心拍間隔のばらつき全体 | R-R間隔の標準偏差 |
| RMSSD | 短い時間でのゆらぎ | 隣り合うR-R間隔差の二乗平均平方根 |
| CVRR | 心拍変動の大きさを平均心拍に対して見たもの | R-R間隔の標準偏差 ÷ 平均R-R × 100 |
■ 周波数解析指標(ゆらぎの“中身”を見る)
| 指標 | 主に見ていること | 簡単な考え方 |
|---|---|---|
| CcvHF | 副交感神経寄りのゆらぎ | HF成分の平方根を平均R-Rで補正し、%で評した指標。副交感神経の反応の大きさや変化をみる |
| CcvL/H | 交感神経寄りの反応やバランスの変化をみる指標 | √LF / √HF を平均R-Rで補正し、%で表した指標 交感神経寄りの反応の大きさや変化をみる |
