開会挨拶

三浦淳様(川崎市産業振興財団理事長)

三浦淳様

高田正信先生(富山西総合病院内科・NPO法人血管健康増進協会理事

高田正信先生

ランチョン

心拍の科学 – 心拍変動の取扱説明書

早野順一郎

名古屋市立大学名誉教授 ・株式会社ハートビートサイエンスラボ

早野順一郎先生

心拍変動解析は、医学、健康科学、社会科学など様々な分野において、自律神経機能、疾患リスク、疲労やストレス、フィットネスや影響、睡眠などの健康状態の評価法として、広く活用されているが、その簡便性のために、限界を超えた使用や結果の拡大解釈もしばしば見られる。その背景には、本来、心拍変動の取扱説明書として常にそこに付随すべき心拍の発生機序や調節に関する生理学的知識の普及不足があると考える。そこで、心拍変動の利用に際して必須の知識を整理し、心拍の科学としてまとめる試みを開始した。今回、そのダイジェスト版を提示し、その妥当性や過不足についての議論のきっかけとしたい。完成版は4部構成とし、第1部の心拍の変化の仕組みでは、心臓自体の内因性心拍数の特性とそれに影響する因子、第2部の心拍と自律神経では、交感神経と副交感神経による心拍調節の特性の違いと呼吸の影響、およびそれらの機序、第3部の起立による心拍の変化では、心拍変動解析が利用されることの多い起立負荷試験に関連する循環調節機序と心拍変動との関係、第4部の心拍の科学の可能性では、長時間心拍変動の健康科学への応用と、心電図以外のウェアラブルモニタの可能性についての知見を扱う予定である。

講演 セッション1

座長 早野順一郎先生

自律神経的心不全マネージメント~自律神経を知る、視る、生かす

朔 啓太
国立循環器病研究センター 循環動態制御部

朔啓太先生

心不全とは平易な言葉では「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義されているやや広い概念である。近年、心不全患者の激増が問題となっており、繰り返し、重症化し、そのたびに多くの医療リソースを使うことからパンデミックという言葉で表現されることもある。心不全の治療戦略は多面的になることは言うまでもないが、心臓や血管機能だけでなく、それらの機能を制御する自律神経の異常を早期より感知し、介入することの重要性が認識されている。運動を含む日常生活を安定的に行うために循環機能は適応力と予備能を備えている。運動時、心臓は収縮性と心拍数を上げ、静脈還流は増加する。一方、灌流を保つために、抵抗血管は内臓では収縮し、皮膚や筋肉では拡張する。自律神経は、刻々と変わる末梢の要求事項に対し、心血管機能を秒単位で変化させ恒常性を維持している。
本講演では、循環恒常性における自律神経の役割と心不全における変化を概説する。さらに、病態理解やテクノロジーの進歩とともに発展をつづける自律神経介入デバイス医療を紹介する。運動やストレス除去、β遮断薬のような古典的自律神経介入以外のオプションが増えてきた心不全治療において、さまざまな手法をどう最適化していくべきか、また次のニーズは何かを考える時間としたい。

心肺運動負荷試験中の自律神経活性評価が示唆に富んだ3症例

渡邉崇量1,2) 山岸純也3) 松本淳2) 大倉宏之1,2)

1)岐阜大学医学部附属病院 検査部・2) 岐阜大学院医学系研究科 循環器内科学
3)岐阜大学医学部附属病院 リハビリテーション部

渡邉 崇量 先生

我々は循環器内科及び心臓血管外科疾患について心臓リハビリテーション(心リハ)を施行している患者や、東洋医学的治療中の患者を主な対象として、日々の臨床に心拍変動解析(HRV)による自律神経(ANS)活性の評価を取り入れる試みを行っている。
今回は、特に心リハ領域で、運動耐容能を評価するために一般的に行われている心肺運動負荷試験(CPX)中にANS活性を同時に評価した結果が臨床的に示唆に富んだ3症例を経験したため報告する。
【症例1】
若年の肥大型心筋症(HCM)患者。CPXの負荷終了後の安静時に急激な血圧低下を呈した。CPX中のリアルタイムANS活性を確認すると負荷終了時からHF成分の過度な上昇を認め、迷走神経反射による血圧低下が出現した可能性が考えられた。
【症例2】
若年の心房中隔欠損症(ASD)術前患者。CPXの負荷終了後の安静時に急激な血圧低下を呈した。CPX中のリアルタイムANS活性においては負荷終了後のHF成分の著明な上昇は認めなかった。本症例では迷走神経反射ではなく、原疾患が原因の血圧低下であると考えられた。
【症例3】
高齢のトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)による慢性心不全患者。アミロイドーシスでは自律神経障害を認めることが知られ、一方、心不全では交感神経活性が亢進することが知られている。本症例のCPX中のANS活性は、先行研究と比較して高周波成分(HF)の十分な減少とLF/HFの著明な上昇を認めず、アミロイドーシスによる自律神経障害の状態を反映していると考えられた。

ポスター掲示

早期パーキンソン病における幻視と自律神経障害

越川浩明,栗田 正,鈴木 仁,作石かおり

帝京大学ちば総合医療センター 脳神経内科

越川浩明先生

【背景と目的】 
パーキンソン病(PD)では早期から自律神経(ANS)障害を,進行期に幻視(VHs)を認める.VHsには視覚情報処理(VIP)障害の関与が指摘され,これまでにVIP機能に関わる様々な脳局所の萎縮やレビー小体の蓄積が報告されている.こうした変化はPD初期から徐々に始まり進行期に顕著になりVHsを惹起する可能性がある.そこで,本研究では早期PDにおいてVIPとANS障害の関係を調べた.
【対象・方法】 
対象はHoehn & Yahr 2迄のPDと同年代の対照(C)群各20名.VIP機能はVHsに関する問診票(VHsアンケート),ノイズパレイドリア試験(NPT),ヒトの顔の弁別課題を用いた視覚性事象関連電位P3潜時で,ANS機能はThe scales for outcomes in PD-autonomic questionnaire (SCOPA-AUT),「きりつ名人®」による心拍血圧変動解析(HBVA)で評価した.
【結果】 
VIP機能について,PD群ではC群には見られないVHsアンケートやNPTの異常を一部の症例に認め,両群間に統計学的に有意な差を認めた.P3潜時は延長傾向にあるものの有意差は認めなかった.ANS機能について,SCOPA-AUTはPD群がC群より有意に高得点で,下位項目では消化器関連症状がPD群で有意に高得点を示した.HBVAの各指標には両群間に有意な差は認めなかった.PD群をVIP,ANS各々の障害の有無で4群に分けて検討すると,一部の症例でVIPとANS障害が併存したが,カイ二乗検定では両障害に有意な関係は認めなかった.
【結論】 
比較的早期のPDでは早期から消化器症状を主体とするANS障害を認めることが改めて確認された.VIP機能も早期から障害されている症例があり,一部の例ではVIPとANS障害の併存を認めたが,両者の障害の間に統計学的に有意な関係は認められず各々の障害は別々に進展する可能性が考えられた,
注)本研究は自律神経2022; 59 (1): 157-164に掲載された.

脊柱の調整は自律神経活動を健常にするか

脊椎原性疾患の発症機序を考えて

吉野和廣、吉野和織

桜カイロプラクティック

【背景】 
コンピュータの性能が向上し、心拍変動中の交感神経と副交感神経の測定が容易になり、交感神経のリズムは骨格筋の血管運動神経と相似し、骨格筋の活動と交感神経活動が密接に関わるとの報告も散見される。演者らは骨盤が左右非対称的に歪むことを報告して来た。骨盤の歪みは体幹を捻じれさせ、脊柱は逆方向へ補正をするので変位が発生する。変位は脊柱に沿う交感神経幹・神経節の活動と体性神経との協調活動を混乱させて心身の機能が不全になる仮説を掲げている。これまで心拍R-R間隔中の時間・周波数領域の解析法で被験者が体位変換時、交感神経反応上昇型、同反転型、安静時自律神経活動低下型であったのが、脊柱補正後は健常型に近づく所見を得た。
【目的】 
脊柱の変位を補正した時と行わない時の自律神経活動の成分の違いを調べる。 
【方法】 
被験者は健康目的で来院された33例の方。脊柱の補正板:三角錐の形状をした背もたれ板を仰臥位で左肩下に留置。自律神経の測定:心拍計は㈱ジーエムエス社のLRR-03、ソフトウエアーは㈱クロスウエルのきりつ名人。測定項目は時間領域全活動量CVRR、周波数領域:CCV(HF)、CCV(LF)、CCV(VLF)、L/H比、および心拍数:HR。来院されて安静後、体位変換法で各1分間計測(座位→起立位→立位)を行う:補正(-)。その後に脊柱補正板を20分間留置し安静後、再計測:補正(+)。統計は対応のあるt検定、回帰直線を用いた。 
【結果】 
体位変換中の自律神経活動量は、補正(-)よりも補正(+)は起立位でCVRRを有意に上昇させ、その成分はCCV(LF)、CCV(VLF)であり、CCV(HF)は変化なかった。心拍数は補正(-)よりも補正(+)が座位、起立位、立位にわたり有意に低下した。補正(+)では、起立位のCVRR、CCV(LF)ならびにCCV(VLF)は加齢との間で負の相関性を検出したが、その減衰する線形は座位より高値であった。考察 CCV(VLF)は交感神経機能のゆっくりとした全体的活動、血管運動活動?を示すことが知られるが、脊柱補正で最も上昇したことから脊柱変位との関わりを想像する。脊柱補正後の起立位は低周波から超低周波領域の自律神経活動量が上昇し、心拍数は強い上昇がなかったことから、身体パフォーマンス、身体機能が低下した場合に脊柱補正は効果を表すと考えた。 結語 脊柱変位の補正を行わないよりも行うと、心拍変動由来の低周波から超低周波領域の自律神経活動は上昇することがわかった。

VR空間における児童相談業務ロールプレイとその効果

〜児童福祉司によるフィールドワークを通して〜

宮川 哲弥1)    堀口祐太 2)

本研究の目的は、児童福祉司の養成過程における実践力及び専門性の向上、また業務上で精神疾患による休職を防ぐ方法を明らかにすることである。A自治体の児童相談所に勤める12名の児童福祉司の協力を得て、従来の対面でのロールプレイとVR技術(Mata社Worksroom)を用いたメタバース空間でのロールプレイについて、心拍変動解析(crosswell社きりつ名人)と主観的指標の2つの観点で比較した。その結果、VR技術を用いた児童相談所の人材養成における研修の効果測定並びに実践力の客観的な データ(エビデンス)を得る事ができた。VR及び心拍変動解析を用いたロールプレイは、対面ロールプレイより交感神経指標が低く、安心・安全に研修ができる事、また、VRと並行しロールプレイを実施することで、児童福祉司業務のストレスを可視化する事ができた。

(1)方法
「泣き声通告」での訪問調査を架空事例として、介入群VR面接と対照群対面面接とで実施。LF/HFを指標として実験。30代母親、父親役をメタバース空間での面接は実験協力者が担い、対面では顔見知りの職員同士で 10分程度のロールプレイを行った。同時に心拍変動解析を実施。VRと対面との比較をした。

(2)3つのリサーチクエスチョン
RQ①:VRよりも対面でのロールプレイの方が交感神経活動が優位=VR面接は対面ロールプレイよりもストレス、緊張が少なく安全・安心か→VR面接は、従前の対面でのロールプレイより、実践的なロールプレイが可能である。自律神経を心拍変動解析すると、LF/HFが対面面接の方が優位となり、VR面接では比較してリラックスして面接ができた。

RQ②仮説②:VR面接は対面面接よりも終了後に心拍数が下がる。
=面接終了後、VR面接は解放感が高く、切り替えができるのか
→VR面接では、比較的高い緊張感が心拍数からもわかる。しかし、HDMを外すと心拍数が急激に下がる現象が起きた。全ての児童福祉司ではなく、特に経験年数が高い児童福祉司ほどその傾向が見られた。

RQ③VRロールプレイはより実践的な研修を可能とし、不安を軽減するか
→児童福祉司等が行う訪問調査は、高ストレスな業務であり、新人児童福祉司等がVRにおけるシュミレーションを様々な事例を行う事で、安全に不安が軽減され、現場での相談援助ができる事が示唆された。VRでの面接は様々な事例を再現できる事から、困難事例を再現し、ベテランを含め良い面接技術の獲得が期待される。

電子書籍(ディスプレイ)の違いによる自律神経への影響

原 直人、鎌田泰彰

国際医療福祉大学 保健医療学部 視機能療法学科

【緒言】従来の液晶ディスプレイは光源にLED (light-emitting diode)を用いており、画面背面に光源が設置され透過光により画面を視認する(バックライト方式)。一方、Kindle®は画面前面に光源が配置され反射光により画面を視認する(フロントライト方式)。この方式の違いにより、Kindle®は画面の光による眩しさが軽減され長時間の読書を可能としている。実際に、光過敏を有す片頭痛患者は電子書籍により頭痛が出現する。しかし、その快適さを生体反応で検討した報告はない。本研究ではKindleとiPad®それぞれのディスプレイの光が生体に与える影響を、心拍変動解析・瞳孔反応および調節安静位と自律神経機能検査から検討した。
【対象】健常者16名(19~22歳、平均20.1±1.1歳)と国際頭痛分類第3版に基づいて診断された片頭痛14名(18~22歳、平均20.1±1.2歳)(前兆のある片頭痛5名、前兆のない片頭痛9名)であった。
【実験】iPadⓇ(10.2インチ、輝度390.8cd/m2)、KindleⓇ(6インチ、輝度77.61cd/m2)注視時の瞳孔反応(両眼電子瞳孔径ET-200(NEWOPTO)と心電図解析装置Reflex名人Ⓡ(クロスウェル)を連続同時測定しiPad®とKindle®で比較した。暗順応を3分間させた後、眼前30cmの距離に設置したiPadⓇ、KindleⓇ上の視標十字を5分間注視させた。瞳孔反応は安静時から注視時の縮瞳率を算出した。心拍変動解析の交感神経指標としてLFnu (=normalized unit)量を用いた。画面注視5分間を1分毎に分け安静時からの変化量を比較した。検査終了後、iPadⓇ、KindleⓇそれぞれのディスプレイ注視による羞明感をVisual analogue scale(VAS)で評価した。調節安静位の測定には、AA-2000他覚的調節機能検査(NIDEK)を用いて開始30秒間の屈折値の変化とした
【結果】(1)縮瞳率はiPad®とKindle®で健常群、片頭Okamoto, K., et al., Bright light activates a trigeminal nociceptive pathway. Pain, 2010. 149(2): p. 235-42痛群ともにKindle®よりもiPad®の方が有意に縮瞳した。健常群と片頭痛群では差はなかった。(2)心拍変動解析では健常群の iPad® Kinde®ともに交感神経指標の変化に有意差はなかった。片頭痛群はiPad®でとKindle®と安静→1分後に交感神経指標が一過性に上昇し、iPad®では有意に上昇した。(3)注視後の調節安静位はiPad®とKindle®での差はみられなかった。(4)健常群、片頭痛群ともにiPad®で羞明を強く訴えた。片頭痛群はKindle®でさえ健常群に比べて羞明を強く訴えた。(5)片頭痛群14名中2名がPad®注視により頭痛を訴えた。

【考察】片頭痛は、低輝度であるKindle®でさえ健常群に比較して羞明感が強いことは、光過敏を有すためであろう。交感神経指標の上昇と強い縮瞳および誘発された頭痛は、侵害的刺激(光)に対する生体の回避・警戒反応の現れと思われる。

【参考文献】
1)Burstein R, et al: Neurobiology of photophobia. J Neuroophthaalmol 39:94-102,2019
2) Noseda R, et al: A neural mechanism for exacerbation of headache by light. Nature Neuroscience 13:239-245,2010
3) Okamoto, K., et al., Bright light activates a trigeminal nociceptive pathway. Pain, 149: 235-242, 2010.

歯科治療時におけるアルコ-ル関連障害群患者の自律神経解析

○井上裕之1,3) 長谷則子2) 井出 桃2) 横山滉介3) 小松知子3) 伊海芳江4) 李 昌一5)     関端麻美2) 吉本 夢2) 角田 晃2) 宮城 敦2) 西村 康2) 長谷 徹2)

1)久里浜医療センター歯科 2)神奈川歯科大学短期大学部歯科衛生 3)神奈川歯科大学障害者歯科 4)横浜市開業 5)神奈川歯科大学災害センター

【目的】
  最近スマートウォッチなどにより、脈拍・心拍が身近にチェックできるように なり、脈拍・心拍に着目した研究が多くみられるようになっている。  今回は、これまでのデータの脈拍・心拍に着目し、健全者群との比較を 行うことにより、アルコール関連障害群患者での自律神経活動の変化をより明確に 示すとともに、歯科治療内容による相違を検討した。
【方法および対象】
 対象は、2010年5月~2014年4月に久里浜医療センター歯科を受診した患者のうち、事前に治療時のモニタリングについて説明、同意を得たもので、アルコール関連障害で入院経験のある男性43例(平均年齢45.0歳、SD9.5)である。本調査、研究については久里浜医療センター倫理委員会(倫理審査186号)の承認を受けた。なお、匿名化したデータを使用し、個人が特定できないように配慮した。 一方、健常者群は某自治体職員男性69名(平均年齢44.9、SD3.7)とし、神奈川県医師会倫理委員会承認を受け、そのデータとの比較検討を実施した。 
【結果】
 アルコール関連障害患者は心拍数が高く、起立時の反応が低く、自律神経活動は低値のものが多い傾向が示された。歯科治療・処置については、抜歯・SRP・その他の3群に分類し、検討したところ、抜歯群で最大の脈拍変動が認められた。

富士山マラソン大会における健康管理

太田眞

大東文化大学  スポーツ・健康科学部 健康科学科  教授

太田眞先生

講演 セッション2

座長 栗田正先生
(医療法人社団正慶会理事長・帝京大学ちば総合医療センター脳神経内科客員教授)

栗田正先生

運動時の心拍変動解析による新しい交感神経指標

上原吉就

福岡大学 スポーツ科学部、福岡大学病院 循環器内科/予防・抗加齢・再生医療センター

上原吉成先生

体力レベル、 特に身体を長時間動かし続けることができる能力を示す全身持久力の高さは生活習慣病の罹患率や死亡率との関連が報告されており、 全身持久力を高めることにより基礎疾患の罹患率や死亡率の低下、 予防につながることはよく知られている。 効果的に全身持久力を高めるための重要な事項の1つは適切な運動強度の設定である。 運動中の交感神経や代謝応答は最大強度のおおよそ50 %あたりから劇的に亢進する。 現在では安全性と有効性の高さから高血圧をはじめとした生活習慣病患者に対する運動処方において中程度の運動強度が推奨されている。
決定を正確に行うためのゴールドスタンダードな方法は、 血中乳酸濃度測定に基づく乳酸性作業閾値(Lactate threshold、 LT)の算出、もしくは呼気ガス濃度測定に基づく換気性作業閾値(ventilatory threshold、 VT)を算出する方法があげられる。 しかしながら、 これらの方法は侵襲性があることや高額な分析機が必要であるという問題で一部の研究機関や医療機関に限られている。
そこで、心電図を用いた心拍変動解析から運動中の交感神経活動を正確に推測可能な方法を検討した。これまでの多くの報告から、心拍変動における低周波成分 (LF) と高周波成分 (HF) の比は、運動中の交感神経活動を正確に反映していない可能性がある。そのため、漸増運動中のカテコールアミン濃度に反映される交感神経活動指標として、呼吸の影響が少ないLFに着目し、新規指標としてHeart rate/LF比を開発・評価した。
本研究では、健康成人15名を対象に、サイクルエルゴメータを用いた漸増運動を実施した。心拍変動周波数解析により自律神経系に関連する心拍変動成分を求めた。また、運動負荷試験中、血中カテコールアミン分画、血中乳酸値、呼吸ガスが測定された。LF/HF比は運動強度の増加とともに増加することはなかったが、Heart rate/LF比は、ノルアドレナリンや血中乳酸値と同様に、漸増運動試験中に非線形に増加した。興味深いことに、Heart rate/LF比は、安静時から運動終了まで、ノルアドレナリン(ρ = 0.788、 p < 0.05)、血中乳酸値(ρ = 0.802、 p < 0.05)、二酸化炭素生成量(ρ = 0.903、 p < 0.05)と正の相関が認められた。
Heart rate/LF比は、運動中での非侵襲的な交感神経活動の指標として有用であり、また運動中の運動強度を把握できるツールとしても応用可能である。

心拍変動解析での不安の見える化・スマートウォッチを活用した健康管理の可能性

勝俣良紀

慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センター

勝俣良紀先生

心拍変動解析は、疾患の予後の指標として発展し、今では、健常者の生活の質を評価・改善するツールとなりつつある。特に、今まで質問紙での評価が中心であったストレスやウェルビーイング(well-being=主観的に健康で、幸福で、満たされ、心地よく、人生の質に満足している状態のこと)の評価が、心拍変動を用いて客観的かつ定量的に評価することが可能になりつつある。しかし、心拍変動は、被験者の状態(例えば、座位なのか、立位なのか、立位であったとしてもその態勢でどのくらい経過した後なのか)によって、値が変動するため、精度の高いストレスやウェルビーイングの評価は、動作に伴う心拍変動の正常な動き(反射)を十分に検証することが重要である。我々は、キリツ名人を用いて、安静時、起立時、立位時の心拍変動の各種パラメーターの変化を検証し、さらにはストレスやウェルビーイングとの関連を検証した。
心拍を用いた、ストレスやウェルビーイングの定量化・可視化は、早期にウェルビーイング増進に向けた行動変容を促すことが可能となり、身体的・精神的疾患の発症を未然に防ぎ、より快適な生活、職場、社会を創出することが可能となることが期待される。

新たな健康尺度 レジリエンスについて 自律神経評価の役割

萩原圭祐

大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座

萩原圭祐先生

少子超高齢社会を迎える我が国では、介護・寝たきりの問題に加えて、育児ストレス、発達障害の問題など、様々な問題に対する対応が急務となっている。我々は、先端医学と伝統医学を組み合わせた新たな融合医学の体系を構築し、少子超高齢社会の問題解決を目指している。
フレイルとは、介護前段階を意味し、フレイルに対する有効な診断法や治療法の開発が望まれている。漢方では、加齢に伴う腰痛やしびれなどの症状を、腎虚と呼んでいる。我々は、漢方における腎虚概念をヒントに、2019年より日本医療研究開発機構(AMED)の統合医療分野での予算を取得し、奈良県の三郷町と共同研究契約を結び、フレイルの実態調査を踏まえた腎虚概念に基づく簡便なフレイル診断スコアの開発に取り組んだ。網羅的なフレイル検診を、のべ709名に実施し、夜間の頻尿(0-2)・腰痛(0-2)・下肢の冷え(0-2)・体のだるさ(0-4)、年齢75歳以上(0-1)という5項目からなるJapan Fraility Scale(JFS)を開発し、JFS4点以上のカットオフで、感度80%以上でプレフレイルの診断が可能となることを示すことができたGENE2022)。
これらの大規模研究のノウハウを用いて、産後女性を対象に、母子との関係性に焦点を当て、産後女性の身体評価やレジリエンスの概念のエビデンス化を目指し、京都大学COIプロジェクトの支援の下、京都大学教育学部明和研究室との共同研究を進めた。現在、産後うつは先進国において従来10-15%にみられると言われていたが、COVID-19の影響下で20-30%に増加、かつ重症化し、最近は長期化が懸念されてきている。しかし、子育て世代のうつの診断は、母親が負の感情を表出を避けることから難しく、うつ症状があっても40%近くは無自覚で専門機関を受診しないと言われている。我々は、漢方の心身一如の概念を踏まえ、気血水の症状を基に作成したMultidimensional physical scale (MDPS)を作成した。17項目からなる質問を1135名の子育て世代の女性から回収し、うつの指標であるBDI-IIを対象に、MDPSを使ってうつの予測が可能であるかを検討した。多変量ロジスティック回帰分析の結果から、MDPSの総点数―月経の再開の有無×3点というMDPS-Mを作成し、10点以上をカットオフとしたところ、感度85%で軽症のうつを予測することが可能であることを明らかにした(Frontiers in Psychiatry in press)。
レジリエンスは、回復力や復元力とも呼ばれ、うつや様々な疾患予後との関りが注目されている。欧米でよく使用されているレジリエンス尺度であるRS-25は個人の強さに焦点が当たっており、集団での思いやりや、共感性を重視する日本では十分なレジリエンスの評価が難しいと報告されている。そこで、レジリエンスの新たなエビデンス構築を目指し、我々は、漢方の五志の概念と社会とのつながりを検討した25項目からなる新たな日本人向けレジリエンス尺度であるJapan Resilience Scale (J-RS)を開発し、現在その妥当性を検証している。さらに、JFS、MDPS、J-RSに加えて、腸内細菌叢、きりつ名人を含めた自律神経評価によるレジリエンス健診を、神戸医療産業都市推進機構と共同研究を進めている。可能な範囲で、その取り組みについても紹介したいと考えている。

閉会の挨拶

出川寿一先生(川崎市内科医会会長・宮前平健栄クリニック院長)

出川寿一先生

藤井智恵子(臨床自律神経機能Forum事務局・株式会社クロスウェル)

司会 有村知里様( アイパス経営コンサルティング株式会社 )

有村知里様

自律神経セルフケア

会場の様子