コロナ渦の中で第6回臨床自律神経機能検査フォーラムが開催される。クロスウエルが設立され、心拍変動解析による自律神経機能検査に着手してから、来年でちょうど20年の節目でもある。

この手法はHolter心電図などから、開発当初は不整脈や心不全などの解析によく用いられた。血中カテコールアミンの測定やトリチウムラベルされたノルエピネフリンspillover、あるいは筋交感神経活動などの測定で、亢進した交感神経機能が様々な心血管イベントや病態と関連していることが判ってきていた。心拍変動解析による自律神経機能は、交感神経と迷走神経バランスという違った新たな側面から病態をみることができたのである。

生体の様々な病態に自律神経機能が極めて重要であることは明らかである。クロスウエルが、精度の良い簡便に解析できる幾つかのソフトを開発して、専門の異なる多くの臨床家たちが、幅広い領域で用いることが可能になった。これにより、本機器にはいろんな用途があることがわかってきたのである。第1回の本会は初代の故永谷基社長の一周忌に開催された。専門の異なる人達が集まって、それぞれユニークで盛り沢山の発表があった。この手法には、解釈に若干の注意を要する点はあるが、刻一刻の変化をリアルタイムで解析できる点で極めて有用な指標である。

最近、この検査の適応は“癒やし”の領域に拡大してきている。“癒やし”のような情緒的な事象を、科学的に解析することはなかなかハードルが高いチャレンジと思われたが、いくつもの施設から音楽や運動、ヨガなどで興味深い成績が得られてきているようである。今後は、情緒的な事象をリアルタイムで、交感神経-副交感神経バランスを追跡していくことで、逆により快適な“癒やし”の方法を模索していく研究もされていくかもしれない。生活習慣の修正に運動が勧められているのは誰もが知るところである。しかし、当然ながら運動の種類や量によってその効果は異なるはずである。最近、欧州からの論文で、運動の中でも、単調なウオーキングやジョッギングよりも、運動強度が多彩なテニスやエアロビクス愛好者で心血管系イベントが少ないという報告があった。このような運動の種類や時間による差異を検討し、個々の病態にあった運動を選択していくのに本検査が役立つかもしれない。

私は日頃AppleWatchを用いて、30秒間の不整脈チェックをしている。このデータをクロスウエルに送付することにより、現在の自分のストレス度を評価し、コメントを頂けるシステムができたのも、ユニークで面白い試みである。

過去の本研究会を振り返ると、いつもの学会では顔を合わさない専門の異なる人たちと意見交換しあうことで、勉強にもなるし、臨床応用を見直す良い機会になれば幸いである。

令和4年11月
                      高田正信
(富山西総合病院内科・NPO法人血管健康増進協会理事)