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第1部 座長 高田正信先生 富山西総合病院

腎臓リハビリテーションの実際と効果:自律神経への影響も含めて

上月正博
公立大学法人山形県立保健医療大学・東北大学

かつて、透析に至らない保存期の慢性腎臓病患者では、易疲労感や運動後の蛋白尿増加などから、安静にすることが治療の基本であった。透析患者でも同様で、安静の結果、透析開始後に体力や筋力がかなり落ちる患者が多かった。腎臓が悪くても少しは運動しないと体力が落ちていくばかりだと思い、1995年に大学院生らとともに様々な腎不全動物モデルラットを作成し、長期的運動が筋肉や腎機能に及ぼす影響を調べたところ、長期的な運動が筋肉を増やすだけでなく、腎機能を保護する可能性や、降圧薬の腎保護作用を強めることを発見した。約20年後の2014年には保存期慢性腎臓病患者でも同様に運動療法で元気になり、心不全を予防し、腎臓を保護することが証明され、慢性腎臓病の治療は「運動制限から運動療法へ」と大転換した。
2011年に諸先輩と設立した日本腎臓リハビリテーション(リハ)学会は、腎臓リハに関する世界初の学術団体であり当初は会員数が80名だったが、現在3,000名を越すほど発展を遂げている。わが国の腎臓リハは、学会を有する点(日本腎臓リハ学会)、ガイドラインを有する点(腎臓リハガイドライン)、指導士制度を有する点(腎臓リハ指導士)、診療報酬収載に成功している点、の4点で世界をリードしている。
運動療法による腎保護作用や心血管疾患予防のメカニズムに関して、糸球体高血圧の改善、糖・脂質代謝改善、血管内皮機能改善などに加えて、自律神経機能への好ましい作用の報告もされている。本講演では、腎臓リハの実際と効果に加えて、自律神経への影響と今後の期待について述べてみたい。

ポスター

高齢維持透析患者の心臓自律神経活動と血管伸展性の検討

-透析時運動療法が心臓自律神経活動に与える影響-
1)三浦美佐・2)上月正博・3)伊藤修
1)筑波技術大学保健科学部 2)山形県立保健医療大学 学長 3)東北医科薬科大学医学部 リハビリテーション学

背景と目的:
加齢ならびに腎機能低下は,高血圧および心血管関連疾患を発症する最大の独立した危険因子である.この心血管リスクは,交感神経伝達の増加と副交感神経伝達の低下を特徴とする自律神経系の不均衡に関連する要因である.一方,運動や栄養も心血管リスク因子に可逆的な影響を与える.ゆえに,われわれは,血管進展性と透析時運動指導前後での自律神経活動との関連を検討することを本研究の目的とした.
対象と方法:
3か月間の透析時運動指導を終えた,73.5±10.5才(男性46.1%,DM有病率61.5%)の維持透析患者13名を対象に,カルテから基本属性および栄養因子を読み取り,非透析時に血管進展性ABIならびにBaPWVをCAVI測定機器VS-1500AE((株)フクダ電子社)にて自動測定し,透析時運動指導前後に心拍計LRR-03(㈱ジーエムエス社)を使用し,解析ソフトウエアーはReflex名⼈(㈱クロスウエル)を使用し測定解析を行った.測定項⽬は時間領域全活動量CVRR、周波数領域HF、L/H⽐、および⼼拍HRとした.統計はPearson product-moment correlation coefficientと回帰直線を用いて検討した.
結果:
透析時運動指導前後での心拍数は安静時HR+30bpmの範囲内で,致死性の不整脈の出現もなく安全に実施完了できた.透析間体重変動は2.4±1.2kgであり,透析条件も含め,適切な医学的管理下にあった.Albは3.6±0.4 g/dLで全員が基準値よりも低値であった.血管進展性検査では,ABI:1.1±0.2,BaPWV:2553.7±716.9 cm/secであった.L/H:4.2±5.0→2.5±1.9,HF:194.9±514.1→39.7±87.9 msec2,CVRR:3.3±5.0→1.9±1.46 %であった.各パラメータの相関では,アルブミンとBaPWV とにrs=0.74(p<0.05)が,安静時L/HとbaPWVとはrs=0.52(p<0.05)の相関が認められた.運動時指導前後の各パラメータ変化をΔで表すと,年齢と運動による脈拍変化⊿HRはrs=0.74(p<0.05),年齢と⊿L/Hはrs=0.52(p<0.05),アルブミンとΔL/Hはrs=0.52の相関が認められた(p<0.05).アルブミンと⊿CVRR変化の間にrs=0.53(p<0.05), baPWVとΔL/Hはrs=0.52(p<0.05)の相関が認められた.年齢と⊿CVRRはrs=0.53(p<0.05), baPWVと⊿CVRRはrs=0.51(p<0.05)の関係が認められた.
考察:
高齢維持透析患者は低栄養で,心臓自律神経活動が少なく,血管進展性が低いことが認められた.一方,ガイドラインに沿って行う透析時運動は安全に実施可能であった.ゆえに,中強度の運動,かつスタッフによるモニタリング監視下の運動時指導の実施は,有害事象発生リスク軽減に有効であることが示唆された.

〇瞳孔計測により精神健康状態を把握できるか

原 直人1)、菊池光一2)、東川拓治、石井 清一3)
1)国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科 2)KIKURA 株式会社3)株式会社ナックイメージテクノロジー

【背景】何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、なんらかの体調不良があるまま働いている状態であるプレゼンティーイズムを把握する他覚的な評価方法が求められている。自律神経機能評価である瞳孔対光反射 (PLR)・心拍数変動 (HRV)はシンプルかつ非侵襲的なツールであることから有力と思われる。
【目的】 PLR、HRVおよび身体的症状・不安と不眠・社会的活動障害・うつ傾向が分かる精神健康調査GHQ(General Health Questionnaire)28との関係を解析することで、PLRが非侵襲的な ツールと成り得るか否か検証した。
【対象】ボランティア36名、平均年齢42.5±13.2歳(21~62歳)。
【方法】心拍変動解析は、血圧・心拍変動解析ソフトきりつ名人(クロスウエル)を用いた。瞳孔測定には、瞳孔計測機KIKU-NAC(ナックイメージテクノロジー)を用いた。両眼分離構造で両眼の瞳孔径を同時に計測可能で、両眼に輝度100cd/m2を1秒呈示する対光反射を測定した。潜時(sec)、瞳孔径(mm)、縮瞳速度(mm/sec)、散瞳速度(mm/sec)をパラメータとした。結果:精神健康度が低いものが6名みられた。HRVとGHQ28との間に相関はなかった。また対光反射各パラ
メータとGHQ28に相関は認められなかった。
【結論】PLRと精神健康状態との間に関係は見出せなかった。

きりつ名人を用いて測定した自律神経機能と緑内障性視野障害重症度の関連性

山田百合菜、清田直樹、吉田光秀、大木広美、 面高宗子 、國方彦志、中澤徹
東北大学眼科

【目的】緑内障は多因子疾患であり、自律神経失調の病態への寄与も指摘されている。本研究では、きりつ名人により得られる自律神経パラメータと緑内障性視野障害の関連性を検証した。
【対象と方法】広義開放隅角緑内障(OAG)43例84眼(男:女=20:23、年齢58.5 ± 10.6歳)を対象とした。きりつ名人(株式会社クロスウェル)により、安静、座位、起立、立位、着席それぞれ1分、計5分間の心電図モニターにより、自律神経パラメータ(活動の大きさ、バランス、反応力、切替力、回復力)を算出した。自律神経パラメータとハンフリー静的視野計によるMD値との相関を解析し、関連を認めたパラメータと上方、中心、下方TD値との関連を線形混合モデルで解析した。
【結果】活動の大きさ、バランス、回復力がMD値と正の相関を示した(β= 0.31-0.38, P < 0.05)。活動の大きさ、回復力と下方視野の相関は、上方視野より有意に高かった (β = 0.19-0.21,
P < 0.05)。
【結論】OAG患者では、自律神経活動の大きさや回復力が低いほど、上方視野に比して下方視野が重症化していた。自律神経機能測定が、緑内障診療に有用である可能性が示唆された。

脊柱の捻じれ補正時と補正後における心拍変動由来の自律神経活動

吉野和廣、吉野和織
桜カイロプラクティック

背景
仙腸関節は特有の歪みを生じることから体幹が捻じれ、椎骨はフィクセイション化し、脊柱の両側面に沿う交感神経幹・神経節はストレスを受け神経伝達が混乱する仮説を掲げている。前回のフィクセイション補正後の体位変換時における起立位の自律神経指標はCCV(LF)、CCV(VLF)が上昇傾向を示し、CCV(HF)は補正前と変化なかった。
目的 
被験者は仰臥位で脊柱フィクセイションの補正を20分間行い、補正時の自律神経活動量を調べる。
方法 
計測方法:心拍計は㈱ジーエムエス社のLRR-03、ソフトウエアーは㈱クロスウエルのReflex名人、測定項目は時間領域全活動量CVRR、周波数領域:CCV(HF)、CCV(LF)、CCV(VLF)、および心拍数:HR。実施方法:被験者は健康目的で来院された39例の方々。①仰臥位姿勢で20分間に渡り、5分間隔の自律神経活動量を測定(安静時群)。②後日に同被験者は仰臥位で脊柱補正板を留置したままで同様に測定(補正時群)。統計は対応のあるt検定を用いた。
結果 
CVRRについて、補正時と安静時の差は見られなかった。CCV(LF)について、補正時が安静時よりも10-15分画分は有意に高値で、65歳以上では15-20分画分も高値の傾向で推移した。CCV(HF)について、補正時と安静時は年齢間で差は検出されなかった。心拍数について、50歳以下は補正時が安静時より2~4拍/分有意に高値で推移した。
結語 
心拍変動由来の低周波~高周波の活動量は脊柱フィクセイション補正中に上昇し、このことは椎骨フィクセイションが交感神経活動にストレスをもたらす仮説を支持した。

〇歯科治療時におけるアルコール関連障害患者の自律神経解析

井上裕之1,2) 長谷則子2) 井出 桃2) 小松知子2) 伊海芳江3) 李昌一2)
松下幸生1) 角田 晃2) 西村 康2) 長谷 徹2)
1)久里浜医療センター 2)神奈川歯科大学 3)横浜市開業

目的
最近、脈拍・心拍に着目した研究が多くみられるようになっている。前回は、これまでの脈拍・心拍集積データと健全者群との比較を行い、アルコール関連障害群患者での自律神経活動の変化を発表した。今回は、一般歯科患者との相違をみて、今後の歯科治療時測定項目検討を行った。
方法および対象
歯科治療開始前にきりつ名人で、治療中はリラックス名人を用いて治療開始時に心拍・脈拍の測定を行い、心拍変動解析を実施した。対象は、2010年5月~2014年4月に久里浜医療センター歯科を受診した患者のうち、事前に治療時のモニタリングについて説明、同意を得たもので、アルコール関連障害患者および一般患者男性21例(平均年齢50.95、SD10.02)である。本調査、研究については久里浜医療センター倫理委員会(倫理審査186号)の承認を受けた。なお、匿名化したデータを使用し、個人が特定できないように配慮した。  
結果
アルコール関連障害患者群14例、(平均年齢42.29、SD7.49)で、一般患者7例、(平均年齢58.29、SD10.40)で検討したところ、患者群では安静時自律神経活動の低下を示す例が約半数にみられ、また、半数以上のものに副交感神経低下が認められた。歯科治療中の心拍数変化をみると、患者群では少ししか変動しないもの、あるいは極端に大きく変動するものが存在し、体の予備力減少等が示唆され、歯科治療時注意の重要性が確認された。

大学生の安静時心拍数・心拍変動をコンディション評価に活かす

加納樹里
中央大学保健体育研究所

【背景】 
筆者は長年勤務先にて多くの大学生アスリートにとって、「心身ともに良好な状態で試合に臨む」といういわば当然の事が、実は決して容易ではないという事実に直面してきた。高額な設備や人件費等を要しない体調管理の客観的・生理的なバイオマーカーを模索する中で、「心拍変動」に着目するに至った。
【目的】 
心拍変動解析により自律神経のバランス、特に副交感神経系の働きを継続的に評価することで、心身のコンディション客観視し、オーバートレーニング等のリスクを回避することができないかを検討した。
【方法】 
「きりつ名人 ®」を用い安静時5分間の体位変換を伴う心拍変動を測定した。若年健常大学生を対象とした研究のため、通常は並行して行う血圧の測定は行わなかった。また、測定中の呼吸数については、学外での測定も多いため、毎回協力者に「測定中は常に自然な呼吸で、リラックスして測定に臨むこと」のみを注意した。
【対象】
①T群:トライアスロン同好会選手6名:トライアスロン同好会の3泊4日の夏期集中合宿に帯同し、合宿中日の就寝前2回、合宿終了後の通常練習日(昼食前)に1回の測定を実施。対象者は同好会所属ながら、全員が高校までに陸上競技部または水泳等の競技部会所属選手。
②B群:体育連盟ボート部員5名:合宿所に測定機器を常設し、春期公式戦(レガッタ)前後の1ヶ月間の任意の日時の就寝直前に、10回の反復測定を依頼。
③S群:健康で活動的な一般学生15名:任意協力。運動をしてない通常授業後の夕刻に1回の測定を実施。
④RH群:大学体育授業に心身両面の事由により参加困難な一般学生(診断書を有する者)9名。「オーバートレーニング症候群」の診断を受け、長期間トレーニング活動を休止しているアスリートを含む。任意協力を依頼し、通常授業開始前の夕刻に1回の測定を実施。
【結果】 
・「副交感神経機能の著しい低下」は、大学年代のアスリートの心身の負荷が蓄積していることを示唆していると考えられた。心身に何らかの健康問題を有している場合には、20歳前後の若い学生の場合でも、副交感神経機能が低値を示す事例が多かった。アスリートへの適応に際しては継続的な測定により、個人差を考慮した評価が必須で、就寝前や起床直後の測定となることが殆どであるが、測定環境の整備・統一が大きな課題であり、練習時間や食事時間との調整を予め予定に組み込むことが必要である。

当日は研究目的に関連する以下の測定項目について、各群の結果を報告する。
HF :周波数分析による高周波成分パワー(0.15Hz以上〜0.4Hz未満)ms2
L/H :LF(周波数分析の低周波成分パワー(0.04 Hz以上〜0.15Hz未満)とHFの比*
直前CVRR :Coefficient of variance of R-R interval:自律神経全体の大きさ指標(%)
心拍数:各体位での分時心拍平均(bpm)
HFnu :HF normalized unit= HF/(LF + HF) × 100 副交感神経活動の相対評価値
※当日は、一流長距離選手を対象に、ポータブルタイプの自律神経測定センサー「VSM-301○R」(株)疲労科学研究所を用いた2分間の安静・指尖脈波による評価データも掲示する予定。

〇生体情報と主観評価を用いた効果的な運動療法の検証

-動画運動療法と介入運動療法の比較-
吉田豊1,森山善文2,湯田恵美1
1)東北大学大学院 2)名古屋共立病院

生体情報とPOMS (Profile of Mood States)による主観評価に違いが生じるか否かについて調査した.
2.方法
対象は高齢群10名(69±5歳, 女性6名),運動器疾患群5人(72±7歳, 女性3名)で午前10時から開始した.健康運動指導士のサポートを受けながら両群とも1日目に動画法,2日目に介入法を実施し,両運動療法とも30分間で運動強度は4METsとした.腕時計型ウェアラブルセンサ(Silmee 22, TDK社製)を装着し[2],平均脈拍数(bpm),活動量(kcal),皮膚温度(℃),発話量(minutes)を測定した.POMSによる主観評価は運動前と終了後に実施した.また,運動終了後に客観的覚醒度検査を実施し(PVT名人,(株)クロスウェル),指先の反応性(msec)を測定した.平均脈拍数,活動量,皮膚温度を10分間ずつ平均値を算出して,運動療法と時相を要因とする二元配置分散分析により評価した.POMSは運動前後でt検定を行い,運動後の指先の反応性は動画法と介入法でt検定を行った.
3.結果・考察
高齢群において,活動量,皮膚温度,発話量に有意な変化が認められ(P<0.05),脈拍には有意な変化は認められなかった.主観評価は,動画法の後で「怒り-敵意」,「不安-緊張」の因子が有意に減少した(P<0.01).介入法の後で「活力-活気」の因子が有意に増加し(P<0.05), 総合スコアは有意に減少して(p<0.01),全体的にポジティブな気分になった.指先の反応性は介入法の後で有意に早くなった(P<0.01).運動器疾患群において,活動量と発話量に有意な変化が認められ(P<0.05),脈拍には有意な変化は認められなかった.主観評価は,動画法の後で「怒り-敵意」,「不安-緊張」の因子が減少傾向を示した(P=0.07).介入法の後で「混乱-当惑」の因子が有意に減少し(P<0.01),総合スコアは減少傾向を示し(p=0.1),ポジティブな傾向が認められた.指先の反応性には有意差が認められなかった.両運動療法とも脈拍数に有意な変化が認められなかったことから,自律神経活動に有意な変化はないと考えられる.また,両群とも動画法よりも介入法の方がポジティブな気分になることから,介入法は対象者の心をポジティブに変える効果が示唆される.

参考文献
1)森山善文,「はじめてでもやさしいナースができる透析運動療法」,学研メディカル秀潤社,2022年7月
2)Y.Yoshida, E.Yuda ” Workout Detection by Wearable Device Data Using Machine Learning”, Applied Sciences,13(7),4280-4280,2023.

〇タクティールケア施術者のリラクセーション効果

小泉由美
公立小松大学 保健医療学部看護学科

タクティールケアは手掌で相手の背部や手足等を柔らかく包み込むようにゆっくり触れるスウェーデン発祥のケアである。我が国では認知症の緩和ケアに始まり、がん医療、終末期医療、在宅ケアなど保健医療福祉の分野で幅広く活用されており、その有効性に関しては、認知症高齢患者のウェルビーイングや攻撃性の改善、補完療法としてのストレスや疼痛の緩和、睡眠の改善、更年期女性へのリラクセーション効果などが確認されている。さらに施術を行う側にも、「癒される」「穏やかになる」「落ち着く」などのリラクセーション効果が報告されており、実際にタクティールケアを施術している私自身も上記効果を実感していたが、主観的な評価にとどまっていた。
そこで、客観的にタクティールケアを施術する側のリラクセーション効果の検証に取り組んだ。準実験研究で事前事後デザインとし、対象者は日常的にタクティールケアを実践している施術者20名である。方法は、コントロールとして30分間の座位安静後にタクティールケアを30分間施術し、コントロール期間と施術期間の自律神経活動の測定、コントロールおよび施術前後の唾液分泌型免疫グロブリンA濃度と唾液の酸化還元電位、二次元気分尺度の測定を行った。分析はWilcoxon符号付き順位検定を用い対応のある比較を行い、5%未満を有意水準とした。自律神経活動は副交感神経の指標としてCCVHF、交感神経の指標としてLF/HFを採用し、コントロール期間と施術期間の30分間の平均値を代表値としてその差を比較した。その結果(中央値と四分位範囲(25%-75%)、CCVHFは[コントロール期間]1.16(0.86-1.4)、[施術期間]1.22(1.0-1.57)で[施術期間]において有意に増加した(p=.044)。LF/HFは[コントロール期間]5.15(3.55-8.12)、[施術期間]3.65(1.66-5.66)で[施術期間]において有意に低下した(p=.002)。また、唾液分泌型免疫グロブリンA濃度は、コントロール後および施術後に有意に増加し、唾液の酸化還元電位は、コントロール前後では有意な変化は認めなかったが、施術前後では施術後に有意に唾液の酸化度が低下した。二次元気分尺度では、コントロール前後では有意な変化は認めなかったが、施術前後では施術後に活性度、安定度、快適度が有意に上昇した。以上の結果から、タクティールケアの施術中は副交感神経活動の活性化と交感神経活動の低下を認め、施術後には唾液分泌型免疫グロブリンA濃度の増加や唾液の酸化度の低下を認め、二次元気分尺度の活性度、安定度、快適度が上昇したことなどから、施術する側のリラクセーション効果が明らかになった。
タクティールケアは、ケアの質維持のために一定の圧力や速度で触れるようになでる手法を習得する必要はあるものの、指圧やリフレクソロジーなどと違い特定のツボや筋肉を意識する必要はないため、解剖生理学的な知識や特別な道具・熟練した技術がなくても施術が可能であること、認知症の緩和ケアとして有効であること、さらにケアを受ける側だけでなくケアを提供する側のリラクセーション効果も期待できることなどから、私は介護技術として認知症当事者の身近にいる家族によって日常的に施術されることを目指して研究を進めている。

第2部  座長 栗田正先生 医療法人社団正慶会 理事長

ヘルスプロモーションへ向けたスマートウォッチを活用した心拍変動解析による試み

大川原洋樹
慶應義塾大学 医学部 整形外科

近年、企業における健康経営は重要な課題の一つとなっており、医療費の削減と労働生産性の向上を目指した健康増進活動を行うためには、社員に与えられる心理的負荷に対する反応を定量的に、かつ可能な限り簡易的に可視化することが重要である。しかし、これまでこのような評価のゴールドスタンダードであったセルフレポートには、主観性、想起・報告バイアスのリスク、社会的条件の影響など、いくつかの限界を伴っていた。一方、ウェアラブルデバイス技術の進歩は、様々な生体情報や生活情報を手間なく離れた場所でも自身で収集することを可能とし、従来のセルフレポートの持つ限界点の解決策として、様々なヘルスポロモーションにおける応用が進みつつある。心拍変動解析は、疾患の予後の指標として発展し、今では、健常者の生活の質を評価・改善するツールとして研究が進んでいる。特に、今まで質問紙での評価が中心であったストレスやウェルビーイング(well-being=主観的に健康で、幸福で、満たされ、心地よく、人生の質に満足している状態のこと)の評価が、心拍変動を用いて客観的かつ定量的に評価することが可能になりつつあり、上述のヘルスプロモーションにおいて親和性が高いと考えられている。昨年度は、我々の研究グループではキリツ名人を用いた、ストレスやウェルビーイングとの関連に関する検証結果をご報告させて頂いたが、さらに本年は実際の応用に関してスマートウォッチを用いた短時間での心拍変動計測によるヘルスプロモーションの取り組みについてご紹介する。

新型コロナウイルス感染症後に頭痛を訴えた3例の起立性調節障害の関与について

光藤尚 
埼玉医科大学 脳神経内科
学校現場において新型コロナ感染症のパンデミック後に起立性調節障害が増えたとされる。起立性調節障害は中学生の1割、小児科を受診する中学生の2割を占めるとされる小児のcommon diseaseであり、しばしば起立性頭痛を訴えて頭痛外来を受診することも多い。今回、新型コロナウイルス感染症感染後に頭痛を訴えた10代男子1例、20代男性1例にティルト名人®や起立名人®を用いて起立性調節障害の評価を行った。10代男子はティルト試験で体位性頻脈を認めた。デコンディショニングの関与を疑い、末梢輸液と起立訓練を実施した。20代男性はシェロング試験で体位性頻脈を認めなかった。頭痛の背景に職場のストレスの関与が疑われたことから、漢方薬の調整を行った。若年成人の頭痛の精査において起立性調節障害の鑑別は必要であり、ティルト名人®や起立名人®はその評価に有用である。

第3部  早野順一郎先生 (株)ハートビートサイエンスラボCEO

well-beingの確立を目指すレジリエンス健診について

萩原圭祐
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座

COVID-19による世界的なパンデミックのまん延により、いわゆるソーシャルディスタンスにより心理的な距離が生まれ、様々な領域での「心のケア」の必要性が報告されている。レジリエンスとは、回復力や復元力とも呼ばれ、様々なストレスに直面したとき、「本来の健全性を取り戻し、回復していく力」として近年注目を集めている。
阪神淡路大震災や東日本大震災など、個人では、どうしようもない避けがたい不幸にまきこまれた後に問題となるのはいわゆるPTSD(Posttraumatic stress disorder、心的外傷後ストレス障害)である。しかし、ボナノらが行ったシニア夫婦の10年に及ぶ縦断研究では、配偶者を亡くした205人において、慢性的な抑うつ状態は、全体の25%にみられ、悲しみに暮れた20%は自然に回復し、45.9%においては衰弱を伴う悲しみはまったく見られなかったことが明らかになっている。つまり、不幸な経験をした全ての人がPTSDになるわけではなく、レジリエンスは、誰もが持っている回復していくための働きで、その働きは高めていくことが可能と考えられている。現在では、レジリエンスはうつ病などの精神疾患だけでなく、がんや糖尿病などの慢性疾患などの予後とも関係しているといわれ、心の健康と体の健康をつなぐ働きが注目を集めている。また、基本的な生活習慣(食べる、寝る、運動する)がレジリエンスを支えていることも報告されている。
 そこで、我々は、「レジリエンス」の見える化作業に取り組んだ。従来のレジリエンスの評価は、欧米でよく使用されているレジリエンス尺度RS-25を使用されてきた。しかしRS-25では、「私のことを好きではない人がいても構わない」、「もしそうせざるを得ないなら、ひとりでやっていける」など、共感性や思いやり、社会とのつながりを重視する日本社会においては、レジリエンスの評価が難しいと報告されている。実際、日本における先行研究においては、欧米と異なり、うつ尺度との逆相関が弱いことが報告されている。そこで、我々は、レジリエンスの新たなエビデンス構築を目指し、伝統医学の概念と社会とのつながりを検討した25項目からなる新たな日本人向けレジリエンス尺度であるJapan Resilience Scale (J-RS)を開発し、現在その妥当性を検証した。その結果、J-RSは、RS25と高い相関を有するだけでなく、うつ尺度とも高い逆相関を示し、感度80%以上でうつ状態を予測することが可能であることが明らかになった(論文投稿中)。
 J-RSの良好な結果を踏まえ、いわゆるwell-beingの確立を目指し、レジリエンス健診を立ち上げました。レジリエンス健診では、J-RSに加えて、感度80%以上でプレフレイルの診断が可能となるJapan Fraility Scale(JFS)(GENE2022) 、身体症状から感度85%で軽症のうつを予測することが可能であるMultidimensional physical scale (MDPS)(Frontiers in Psychiatry 2022)を使って、老化・身心の状態を評価し、加えて腸内細菌叢、起立名人を含めた自律神経評価によるレジリエンス健診を、神戸医療産業都市推進機構と共同研究を進めている。その取り組みについて紹介し、自律神経とレジリエンスの関りについて、可能な範囲でデータを示したいと考えている。