心拍変動解析 起立負荷試験 基準値としての可能性
有田 幹雄
和歌山県立医科大学 名誉教授
角谷リハビリテーション病院
【背景】
自律神経障害の一つである起立性血圧調節障害は高齢者や糖尿病患者でその頻度が増加し、臓器障害の進行と長期的な生命予後の悪化に関連するとされている。起立負荷試験として日常診療で簡便な検査が普及している。起立時の血圧変動及び自律神経系の異常が動脈硬化や認知症との関連が指摘され、また人工透析患者などでも検討されているが、正常者における基準値が定められていない。
【目的】
日常診療で簡便な検査として安静5分後、2分の座位から能動的に起立後2分後の血圧・脈拍を測定し、その血圧・脈拍変化や自律神経系の指標の年齢ごとの変化を検討する。
【対象・方法】
我々が実施している地域疫学研究の対象集団6285人(15歳~80歳)の中から、起立時の血圧変動と自律神経反応を測定した1915名(男性795名、女性1120名)のデータから、年齢ごとの変化を検討した。自律神経反射を簡便な手法である座位から立位にした際の血圧変化を観察した。起立負荷は座位2分、立位2分、座位2分の簡便法で行った(起立名人:クロスウェル社)。検査中は血圧、心拍を1分おきに自動測定するとともに、RR間隔変動係数(CVRR)、交感神経指標(LF/HF)、副交感神経指標(CCVHF)を記録し、自律神経機能を評価し、年齢ごとに比較した。
【結果】
安静時収縮期血圧(SBP)は122.0±14.7mmHg、起立負荷時119.3±10.8mmHgであり、ΔSBP(起立時-安静時)は-3.5±10.8mmHgであった。加齢に伴いSBP、脈圧は有意に増加した。一方、ΔSBP,Δ脈圧は加齢に伴い有意に減少した。心拍数は安静時、起立時有意な変化は見られなかったが、ΔHRは年齢と共に減少した。CVRR,起立時CVRR,ΔCVRRは年齢に伴い有意に減少した。安静時CCVL/Hは年齢による変化は見られなかった。CCVHFは安静時、起立後の着席時ともに加齢に伴い有意に減少した。⊿SBPは起立時CVRR、年齢と性差と有意な相関を示した。
【考察】
血圧は15歳から80歳まで、加齢に伴い上昇し脈圧も増加した。起立負荷に伴う血圧の降下度は加齢により増加した。安静時交感神経指標は年齢と関連を示さず、起立時交感神経反射は年齢と共に減少した。副交感神経指標は安静時、起立後の着席時ともに年齢と共に減少した。自律神経活動全体は安静時、起立時ともに年齢と共に減少した。正常人の起立時交感神経反射・副交感神経反射の年齢的な変化を解析し、年齢ごとの基準値を作成することにより臨床的な応用が期待される。