第4回臨床自律神経機能Forum 当日スケジュール・抄録・会場の様子

日時:令和2年2月1日(土) 12:00~17:30 (受付:11:30) 
会場:公益財団法人 川崎市産業振興財団 展示場
   神奈川県川崎市幸区堀川町66番地20
主催:臨床自律神経機能Forum
共催:公益財団法人川崎市産業振興財団
   川崎市内科医会
   株式会社クロスウェル
後援:川崎市医師会 
■ 開会の挨拶
12:00  出川寿一(宮前平健栄クリニック 院長 川崎市内科医会 会長)

■ 実演セミナー 座長 栗田正 (帝京大学ちば総合医療センター神経内科 教授)
12:10  ・「鍼刺激による脳血流と心拍のゆらぎ」
久島達也 (帝京平成大学 ヒューマンケア学部 鍼灸学科 教授 )

■ 特別講演 座長 高田正信 (富山西総合病院 内科)
13:00  ・「新奇環境に順応し適応して行くときの心臓と脳のゆらぎ」
大塚 邦明 (東京女子医科大学名誉教授 東京女子医科大学 特定関連施設 戸塚ロイヤルクリニック所長)

■ 講演  心拍変動解析による自律神経反応評価の可能性1
座長 有田幹雄(和歌山県立医科大学 名誉教授 角谷リハビリテーション病院 院長)
14:00  ・「心拍変動解析 起立負荷試験 基準値としての可能性」
有田幹雄(和歌山県立医科大学 名誉教授 角谷リハビリテーション病院 院長)
    ・「高齢高血圧患者のフレイル・認知症に関する心拍変動解析の活用」
原田和昌(東京都健康長寿医療センター 副院長)
     
■ポスター紹介 協賛企業紹介 交流会 自律神経機能を”みる”×”しる”×心豊かに”くらす”をテーマに
*ポスター掲示 ポスター 各分野の先生の心拍変動解析の臨床・研究でのご活用をポスター掲示にてご紹介

「外来通院中の高齢者における認知症と起立性血圧変動の関連」
  鳥羽梓弓(東京都健康長寿医療センター循環器内科)
「歯科治療時におけるアルコール関連障害群患者の自律神経解析」
  井上 裕之(国立病院機構 久里浜医療センター 歯科)  
「メニエール病患者における自律神経機能についての検討」
  三輪徹(北野病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
「体位性頻脈症候群に対する補中益気湯の効果の検討」
  光藤尚(埼玉医科大学神経内科)
・「休職期間中にrTMS磁気治療を受け、自律神経機能変化、唾液中コルチゾール変化との関連について考察した一例」 
  田中遥(ベスリクリニック院長)
「着衣センサによる運転中の呼吸モニタリング」
  湯田 恵美(東北大学大学院工学研究科)
「鍼刺激による夜間睡眠中の間質グルコース濃度の評価」
  山本健人(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
「心拍数と鍼通電刺激時刻」
  佐藤俊介(帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科)
「鍼通電が作業効率、自律神経活動、前頭前野の血流量に及ぼす影響」
  脇英彰(帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科)
「日帰りヘルスツーリズムが自律神経活動に与える影響」
  藤田小矢香(島根県立大学看護栄養学部)
「執務者の生産性を推定する診断技術の開発」
  堀田竜士(富士ゼロックス株式会社 研究技術開発本部 コミュニケーション技術研究所)
「心不全患者における運動中の心拍変動解析」
  勝俣良紀(慶應義塾大学循環器内科)
「ホームエクササイズの新しいメニュー・木剣体操エクササイズ」
  「要の技」の自律神経活動改善効果の検討 〜要の技でこころと体をリフレッシュ!
  岩坂潤二(関西医科大学循環器内科)

■ 講演  心拍変動解析による自律神経反応評価の可能性2
座長 栗田正 (帝京大学ちば総合医療センター神経内科 教授) 
16:10  ・「きりつ名人検査と皮膚生検から学んだ痛みのメカニズム」
平井利明(帝京大学溝口病院神経内科 准教授)
     
■ 総括 座長 高田正信 (富山西総合病院 内科)
16:30  ・「視床下部の2極システム:交感神経はエネルギー消費型、副交感神経はエネルギー節約型」
  黒岩義之(財務省診療所長、帝京大学医学部附属溝口病院脳卒中センター長、横浜市大名誉教授、日本自律神経学会前理事長)

■閉会の挨拶 株式会社クロスウェル代表取締役 藤井智恵子
17:30 

開会の挨拶 

宮前平健栄クリニック 院長  出川寿一

第4回臨床自律神経機能Forum 開催に寄せて

初に「きりつ名人」のお話を聞いた時には、脈拍変動という言葉さえ知りませんでした。ちょっとしたきっかけでクロスウェルの藤井さんとお知り合いになることができ、このフォーラムの第1回に関わるようになりました。その中で脈拍変動を解析することで自律神経機能を評価できるとうかがいとても興味を持ちました。
私自身は、透析クリニックで働いています。透析の患者さんはしばしばふらつきなどを訴えます。そのような症状を自律神経機能で説明できるかという関心がわいてきました。クリニックに「きりつ名人」を導入し糖尿病を合併している方を中心に透析患者さんの自律神経機能を検討し始めています。
まだ、今のところはたちくらみなどの症状と自律神経機能の関連は見えてきていませんが、ADLの極度の低下をきたした方もしくは死亡された方の自律神経機能に一定の傾向が見えてきました。これがはっきりしてくれば、定期的に「きりつ名人」を行うことでリスク評価ができるようになると思います。
 このような臨床に直結するデータを積み重ねることで、脈拍変動の意義をより広い範囲の方に認知していただけるようになるのではないかと考えます。会に参加されている方々からのご報告を楽しみにしています。

2020年1月27日
出川 寿一
宮前平健栄クリニック 院長
(川崎市内科医会 会長)

■ 実演セミナー

座長 栗田正先生 (帝京大学ちば総合医療センター神経内科 教授)

「鍼刺激による脳血流と心拍のゆらぎ」
久島達也先生 (帝京平成大学 ヒューマンケア学部 鍼灸学科 教授 )

鍼は、身体表面に接触又は穿刺刺入により皮膚や組織を損傷させ、生体に一定の機械的刺激を与え、様々な生体反応を生じさせる器具として鍼灸治療で用いられてきた。これまで、我々は、ヒト三叉神経眼枝の分布する前頭部に鍼を刺入し、その鍼に電気を流す鍼通電刺激が作業記憶をはじめとする認知機能などを司る前頭前野領域のヘモグロビン(Hb)量や機能に及ぼす影響を検討してきた。その結果、低周波鍼通電刺激が(1)HF成分を亢進させ、心拍数を減少させること、(2)前頭前野領域のOxyHb量を増加させること(3)前頭前野領域のOxyHb量の増加には、刺激を明瞭に感じる電流量による刺激が有効であること、(4)暗算課題時に特に左前頭極OxyHb量を増加させることで解答の集中度やしやすさを向上させることなどを確認してきた。
本フォーラムでは、これらに関して実技を踏まえ解説すると共に、鍼による三叉神経眼枝への体性感覚刺激が脳血流や自律神経系を調節する可能性について紹介する。

■ 特別講演
座長 高田正信先生 (富山西総合病院 内科)

「新奇環境に順応し適応して行くときの心臓と脳のゆらぎ」
大塚 邦明先生 (東京女子医科大学名誉教授 東京女子医科大学 特定関連施設 戸塚ロイヤルクリニック所長)

ホメオスタシスを提唱した19世紀のフランスの生理学者、Claude Bernard (1813-1878) が述べた通り、脳のゆらぎは心拍に反映される。ワシントン大学の脳神経科学者のMarcus ERaichle(1937-)は、fMRIを用いて脳の働きを観る仕事に没頭し、脳の画像のゆらぎに脳の働きが映っていることに注目した。オハイオ州立大学の精神科医、Julian F Thayerは、脳の前頭前野-帯状回-扁桃核-島-脳幹等のゆらぎが心拍変動に映っていることに関心し、心拍変動で心を診ることに苦心している。
上記所論を背景に、新奇環境に順応し適応するときの心拍のゆらぎについての演者らの知見と推論を紹介したい。宇宙空間に住むとき(微小重力環境)、亜北極圏の住民(地磁気擾乱に暴露)、高所環境に住むとき(低圧低酸素環境)、心臓移植を受けた後(末梢自律神経の切断)、超高齢地域住民(認知障害)等の心拍応答から、新奇環境に順応するときの心拍と脳のゆらぎについて論じてみたい。

参考文献
1. 大塚邦明著. 時間内科学. 中山書店 東京 pp. 325, 2013年
2. Otsuka K, Cornelissen G, Halberg F. Chronomics and Continuous Ambulatory Blood Pressure Monitoring –Vascular Chronomics: From 7-Day/24-Hour to Lifelong Monitoring. Tokyo: Springer Japan, 2016, 870 + lxxvpp. 10.1007/978-4-431-54631-3.
3. Otsuka K, Cornelissen G, Kubo Y, Hayashi M, Yamamoto N, Shibata K, Aiba T, Furukawa S, Ohshima H,Mukai C. Intrinsic cardiovascular autonomic regulatory system of astronauts exposed long-term to microgravityin space: observational study. npj Microgravity 2015; 1:15018. doi: 10.1038/npjmgrav.2015.18.
4. Otsuka K, Cornelissen G, Furukawa S, Kubo Y, Hayashi M, Shibata K, Mizuno K, aiba T, Ohshima H, Mukai
C. Long-term exposure to space's microgravity alters the time structure of heart rate variability of astronauts.
Heliyon 2016; 2:e00211. doi: 10.1016/j.heliyon.2016.e00211.
5. Otsuka K, Cornelissen G, Kubo Y, Shibata K, Hayashi M, Mizuno K, Ohshima H, Furukawa S, Mukai C.
Circadian challenge of astronauts’ unconscious mind adapting to microgravity in space, estimated by heart rate variability. Sci Rep 2018; 8: 10381. doi: 10.1038/s41598-018-28740-z.
6. Otsuka K, Cornelissen G, Kubo Y, Shibata K, Mizuno K, Ohshima H, Furlong-term space ukawa S, Mukai C.
Anti-aging effects of long-term space missions, estimated by heart rate variability. Sci Rep. 2019; 9: 8995. doi:10.1038/s41598-019-45387-6.

■ 講演  心拍変動解析による自律神経反応評価の可能性
座長 有田幹雄先生(和歌山県立医科大学 名誉教授 角谷リハビリテーション病院 院長)

「心拍変動解析 起立負荷試験 基準値としての可能性」
有田 幹雄先生
和歌山県立医科大学 名誉教授  
角谷リハビリテーション病院

【背景】
 自律神経障害の一つである起立性血圧調節障害は高齢者や糖尿病患者でその頻度が増加し、臓器障害の進行と長期的な生命予後の悪化に関連するとされている。起立負荷試験として日常診療で簡便な検査が普及している。起立時の血圧変動及び自律神経系の異常が動脈硬化や認知症との関連が指摘され、また人工透析患者などでも検討されているが、正常者における基準値が定められていない。
【目的】
 日常診療で簡便な検査として安静5分後、2分の座位から能動的に起立後2分後の血圧・脈拍を測定し、その血圧・脈拍変化や自律神経系の指標の年齢ごとの変化を検討する。
【対象・方法】
 我々が実施している地域疫学研究の対象集団6285人(15歳~80歳)の中から、起立時の血圧変動と自律神経反応を測定した1915名(男性795名、女性1120名)のデータから、年齢ごとの変化を検討した。自律神経反射を簡便な手法である座位から立位にした際の血圧変化を観察した。起立負荷は座位2分、立位2分、座位2分の簡便法で行った(起立名人:クロスウェル社)。検査中は血圧、心拍を1分おきに自動測定するとともに、RR間隔変動係数(CVRR)、交感神経指標(LF/HF)、副交感神経指標(CCVHF)を記録し、自律神経機能を評価し、年齢ごとに比較した。
【結果】
 安静時収縮期血圧(SBP)は122.0±14.7mmHg、起立負荷時119.3±10.8mmHgであり、ΔSBP(起立時-安静時)は-3.5±10.8mmHgであった。加齢に伴いSBP、脈圧は有意に増加した。一方、ΔSBP,Δ脈圧は加齢に伴い有意に減少した。心拍数は安静時、起立時有意な変化は見られなかったが、ΔHRは年齢と共に減少した。CVRR,起立時CVRR,ΔCVRRは年齢に伴い有意に減少した。安静時CCVL/Hは年齢による変化は見られなかった。CCVHFは安静時、起立後の着席時ともに加齢に伴い有意に減少した。⊿SBPは起立時CVRR、年齢と性差と有意な相関を示した。
【考察】
 血圧は15歳から80歳まで、加齢に伴い上昇し脈圧も増加した。起立負荷に伴う血圧の降下度は加齢により増加した。安静時交感神経指標は年齢と関連を示さず、起立時交感神経反射は年齢と共に減少した。副交感神経指標は安静時、起立後の着席時ともに年齢と共に減少した。自律神経活動全体は安静時、起立時ともに年齢と共に減少した。正常人の起立時交感神経反射・副交感神経反射の年齢的な変化を解析し、年齢ごとの基準値を作成することにより臨床的な応用が期待される。

「高齢高血圧患者のフレイル・認知症に関する心拍変動解析の活用」
原田和昌先生(東京都健康長寿医療センター 副院長)

高齢者の高血圧は、一般的に収縮期高血圧、白衣高血圧、夜間非降圧型(non-dipper)、早朝の昇圧 (morning surge)例の増加などが特徴的であるが、それに加えて血圧動揺性が増大し、起立性低血圧や食後血圧低下の増加がしばしばみられる。その機序として、頸動脈の動脈硬化による頸動脈洞反射の減弱や、昼夜における交感神経、副交感神経のアンバランスなどが推定されてきた。最近、健康な状態と要介護状態の間の状態として、フレイルが定義され、2020年4月よりフレイル検診が開始されることとなった。身体的フレイルは体重減少、筋肉の量と質の低下、身体活動レベルの低下が中心であるが、それ以外にも無症候性脳梗塞、白質病変、転倒しやすさ、心血管疾患による一回心拍出量低下、炎症、動脈硬化、慢性腎臓病(CKD)などが関与する複雑な概念である。高齢者に多い起立性低血圧が将来の認知症発症と関係すること(Three-City Study Cohort)、また、食後低血圧は無症候性ラクナ梗塞と関係することが報告された。無症候性ラクナ梗塞は白質病変とともにSVD(small vessel disease)として認知症との関係が言われており、血圧動揺性と脳血管の血流調節能の障害が関与する。そこで、当センターで外来通院中の患者64人(平均年齢74歳)において起立性低血圧と自律神経機能を起立名人により調べたところ、18人(28%)に起立性低血圧を認めた。起立性低血圧群で左室の一回拍出量が有意に低く、大動脈のスティッフネスが高かったが、安静時血圧や自律神経機能に有意な差を認めなかった。他方、レビー小体病などでは自律神経機能の障害から、食後低血圧、認知機能の低下を引き起こすと考えられるが、血圧の精密なコントロールにより認知機能を改善できた。また、高齢者215人(平均年齢78歳)において起立性血圧変動やフレイルが転倒リスクに及ぼす影響を調べたところ、年齢や血圧は高齢者の転倒とは関連がなく、転倒は主としてフレイルの重症度に規定された。以上のように高齢高血圧患者のフレイル・認知症を予防する個別治療に心拍変動解析は重要と考えられる。

■ 講演  心拍変動解析による自律神経反応評価の可能性
座長 栗田正先生 (帝京大学ちば総合医療センター神経内科 教授)

「きりつ名人検査と皮膚生検から学んだ痛みのメカニズム」
平井利明先生(帝京大学溝口病院神経内科 准教授)

平井利明1),黒岩義之1)
1) 帝京大学医学部附属溝口病院脳神経内科・脳卒中センター

皮膚組織は主に表皮組織,真皮組織,皮下組織に分類される.末梢神経の最遠位部がどこであるかは長年不明とされてきたが,1989年に軸索マーカーであるprotein gene product 9.5(PGP9.5)に対する抗体作成をきっかけに,1990年代に本抗体を用いた免疫組織化学と共焦点レーザー顕微鏡による解析技術の組み合わせから,豊富な神経線維が表皮内組織にまで達していることが証明された.この方法の普及により,small fiber neuropathy(SFN)の診断に有用であることが表皮内神経の脱落をもって示された.皮膚生検によるSFNの評価として,様々な疾患が対象となる.例えばシェーグレン症候群や糖尿病性末梢神経障害は1990年代から皮膚生検により証明されていたが,近年線維筋痛症のように多彩な症状を伴う疾患でもSFNを呈するとされる.フォーラムでは正常皮膚組織での神経走行(図1,図2)や,皮膚生検によりSFNと診断された9症例をご紹介する(図3に表皮内神経密度が高度に低下していた線維筋痛症の症例を示す).この9症例はいずれも神経内科外来で行われる神経伝導検査では正常所見であった.さらに線維筋痛症と診断された12症例(34歳~58歳,女性10名)においてきりつ名人を行い,その主な所見は安静時CVRR低下(67%),CVRR反射正常(83%),起立時交感神経基礎活動亢進(58%),起立時交感神経反射正常(75%),安静時副交感神経基礎活動低下(75%)であった(典型例を図4に示す).線維筋痛症のようにヒステリーと診断されうる症例に皮膚生検やきりつ名人は有用になるであろう.

■ 総括 座長 高田正信先生 (富山西総合病院 内科)

「視床下部の2極システム:交感神経はエネルギー消費型、副交感神経はエネルギー節約型」
  黒岩義之先生(財務省診療所長、帝京大学医学部附属溝口病院脳卒中センター長、横浜市大名誉教授、日本自律神経学会前理事長)

黒岩義之1,2)、平井利明2)
1).財務省診療所、2).帝京大学医学部附属溝口病院脳神経内科・脳卒中センター

地球は太陽と水と生命の惑星である。物理学者シュレディンガーは70年前に「生命体には暗号のようなものがある」「生命体の本質は負のエントロピーの創造にある」という2つの重要な予言をした。生命体にある暗号はワトソン・クリックの二重らせんモデルで証明された。生命界で熱力学的にエントロピーが下がる(負になる)ということは「秩序を保つ」ということである。これこそがまさに恒常性(ホメオスタシス)ということになるが、生命体を生命体たらしめる 「秩序の維持」は宇宙の法則(エントロピーが正になる)に逆らうことなので、エネルギーがないとできない。そこで、太陽光エネルギーの窓である視床下部と脳室周囲器官がホメオスタシスの司令塔となるのである。
視床下部と脳室周囲器官には多次元的な制御集積回路が存在し、①エネルギー代謝制御(栄養代謝、深部体温)、②自律神経制御、③概日リズム・光周性制御、④免疫炎症制御、➄本能行動制御(摂食行動、繁殖・養育行動、飲水行動)、➅ストレス反応制御、⑦歩行・ロコモーション制御、⑧情動・記憶制御、⑨感覚閾値・疼痛制御、⑩循環動態制御(循環体液量、脳脊髄液動態、神経血管カップリング反応)の10大制御集積回路をカバーする。視床下部機能を理解するには、視床下部を介する複雑な求心性ならびに遠心性ネットワークの存在を知ることが重要である。安全管理型(エネルギー蓄積・節約型)視床下部(Safety control type of hypothalamus: feed, digest & breeding system)と危機管理型(エネルギー異化・消費型)視床下部(Crisis control type of hypothalamus: fight, flight & heating system)の2極体制からなる視床下部はエネルギーによって生かされている地球生命系の小宇宙といっても過言でない。エネルギー節約型視床下部は副交感神経系を促進し、エネルギー消費型視床下部は交感神経系を促進する。
概日リズム情報は網膜から視交叉上核に入る。心理的ストレス情報は扁桃体から背内側視床下部に入る。感覚性脳室周囲器官が感知した信号(光、匂い、音、電磁波、レプチン、グレリン)は視索前野、背内側視床下部を経て、安全管理型視床下部(摂食行動・繁殖行動中枢)と危機管理型視床下部(代謝免疫・ストレスホルモン中枢)に伝達される。視床下部は内分泌器官であり、ここからはオレキシン、バゾプレシン、オキシトシン、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、性腺刺激ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、プロラクチン放出ホルモンなどが分泌される。視床下部症候群(脳室周囲器官制御破綻症候群)を呈する疾患、症候群には、ヒトパピローマウィルスワクチン接種関連神経免疫症候群、慢性疲労症候群、脳脊髄液減少症、環境過敏症などがある。これらの多くは交感神経系(危機管理型視床下部)の亢進、副交感神経系(安全管理型視床下部)の抑制、HPA軸の疲弊によっておこる。近年、話題となっているフレイルは危機管理型視床下部の過度な抑制に伴う安全管理型視床下部の過度な亢進(過度なエネルギー節約現象)と解釈できる。私が提唱した「視床下部症候群」(脳室周囲器官制御破綻症候群)と似たような視点を、最近、ボストンなどの海外研究グループが打ち出してきている。線維筋痛症(fibromyalgia)や慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome)は活動不耐症(systemic exertion intolerance diseases)とも呼ばれ、化学物質過敏症(Chemical hypersensitivity)は化学物質不耐症(Chemical intolerance)とも呼ばれている。線維筋痛症/慢性疲労症候群/複合性局所疼痛症候群/脳脊髄液減少症/化学物質過敏症、そして子宮頸癌ワクチン神経免疫症候群(HANS)など、私の言う「視床下部症候群」に「活動不耐症(exertion intolerance)」という言葉がよく似合う。これらの「視床下部症候群」の病態は視床下部の炎症であり、マスト細胞の活性化→ミクログリアの活性化→炎症性サイトカインの放出→自然免疫応答促進→神経炎症促進という流れが注目されている。マスト細胞の活性化が起こるメカニズムに関しては、最初にミトコンドリア機能異常が起こり、その結果、ミトコンドリアDNAが細胞外に出て細胞外液中(血液、脳脊髄液)を浮遊し、それが視床下部周囲のマスト細胞を活性化するのである。治療にルテオリンの構造を変えた薬剤が開発され、これを鼻腔噴霧すると視床下部周囲炎症が治まり、症状の改善をみると報告されている。私が提唱した「視床下部症候群」もミトコンドリア異常、つまりエネルギーの問題に戻るのである。

■ポスター紹介

「外来通院中の高齢者における認知症と起立性血圧変動の関連」
鳥羽梓弓、石川讓治、原田和昌
東京都健康長寿医療センター 循環器内科

【目的】 これまでの当院フレイル外来での研究においては、起立性低血圧は動脈エラスタンスと関連があり (Blood Press Monit. 2017)、起立性高血圧は基本チェックリストの下肢運動機能関連の点数と関連があった(Geriatr Gerontol Int.2019)。起立性低血圧や起立性高血圧と認知症との関連は明らかでなく、認知機能の評価方法によっても結論は様々である。そこで、起立性血圧変動と認知機能との関連を自律神経活動と共に評価した。

【方法】 当院フレイル外来に通院中の患者において、起立名人(Croswell社)を用いて安静座位、起立直後、立位1分後、着席時の血圧、脈拍、自律神経の変動を測定した。また、認知機能評価としてMMSE、HDS-R、MoCAの3通りを施行した。

【結果】 データが有効であった392名の患者のうち、起立性低血圧は50名(13%)、起立性高血圧は119名 (30%)に認めた。起立性低血圧、起立性高血圧はいずれの認知機能評価の点数とも関連を認めなかった。MoCA点数24点以下と25点以上に分けると、MoCA低値群は年齢が高く高血圧の既往が多かった。また、低値群では起立保持で血圧が上昇し着席時に低下した。自律神経機能で見ると、低値群では起立後の立位保持での交感神経の亢進が大きかった。MoCA点数と起立から立位での収縮期血圧の変化は負の相関を認めた。起立から立位での収縮期血圧の変化は年齢、性別、フレイルの指標である基本チェックリストの点数とは独立してMoCA点数と関連していた。

「歯科治療時におけるアルコール関連障害群患者の自律神経解析」
井上 裕之1)5) 長谷 則子2) 井出 桃3) 李 昌一4) 角田 晃3) 宮城 敦3)小松 知子5) 関端 麻美3) 西村 康3) 長谷 徹3) 柿木 保明6)
1) 国立病院機構 久里浜医療センター 歯科 2) 神奈川歯科大学 歯学部  3) 神奈川歯科大学短期大学部 4) 神奈川歯科大学大学院横須賀・湘南地域災害医療歯科研究センター・ESR研究室5) 神奈川歯科大学大学院全身管理医学講座障害者歯科学分野 6) 九州歯科大学 老年障害者歯科学分野

【はじめに】
 本邦において、2014年「アルコ-ル健康障害対策基本法」が施行され、2016年には「アルコ-ル健康障害対策推進基本計画」が閣議決定、各都道府県に推進計画の策定が伝達され、各地区で、飲酒に伴うリスクについての普及が広がりつつある。
我々は、アルコ-ル関連障害群患者において、歯科治療時における自律神経解析することにより、さまざまな血圧変動や大きな脈拍変動が発症することを発表してきた。
今回は、治療前の自律神経機能評価とその後の心拍数変化等を見ることによって、循環器系への変調の兆しを速やかに発見し、歯科治療時の危険性回避に効果的なプログラムを提示したい。
【方法および対象】
 歯科治療前、起立負荷試験による自律神経・循環の状態・反応を評価。一部歯科治療中、脈拍連続測定、血圧随時測定。(クロスウェル社製 血圧・心拍変動解析ソフトmeijin きりつ名人 治療名人使用)
 対象は、平成22年5月~平成26年4月までに久里浜医療センタ-歯科に受診し、アルコ-ル関連障害で入院経験ある男性患者40症例。平均年齢46.5歳、なお、そのうち31例は歯科治療中連続測定ができたものである。
 一方、比較デ-タとして用いたのは企業等で測定した男性243名のデ-タであり、平均年齢48.4歳であった。
【結果】
 患者群は安静心拍数が速く、安静自律神経活動(CVRR)安静副交感神経(ccvHF)・交感神経(ccvL/H)、交感神経反射(ccvL/H 起立―安静)が一般群と比べて低い傾向がみられた。
 患者群は、安静時自律神経活動CVRRの低下(予備力低下)の比率が高い状況がみられた。 治療中の心拍数は変化していることが認められた。
 治療前起立時の心拍数が速い症例は治療時最大脈拍数も速い傾向にあることが見られた。
【結論】
 アルコール関連障害群患者では自律神経系の不調により様々な症状が発現しやすい。また、歯科治療中は心拍数の変化にみられるように循環器系への変調も起こりやすい。治療前の自律神経機能評価は、体調把握のための有効な情報であることが示された。さらに、セルフモード・問診機能を取り入れることにより、歯科臨床での危険回避効果的を向上させたいと考えている。

「メニエール病患者における自律神経機能についての検討」
三輪 徹
公益財団法人田附興風会医学研究所 北野病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

自律神経系と前庭系の間には、前庭自律神経反射経路が存在しており、前庭刺激を受けた際には自律神経機能異常が引き起こされる。また、自律神経機能が減弱している者は、めまい症状が増強・遷延化しやすいことも知られている。今回我々は、前庭系と自律神経系の関連性をより明らかとし、めまい発症時の自律神経症状を抑制するために必要なことについて考察を行う。
対象は、めまいを主訴にJCHO熊本総合病院耳鼻咽喉科を受診した50歳以上の患者のうち、一連の平衡機能検査を行い、メニエール病と診断した29名。コントロールにはめまいの既往を持たない50歳以上の健常人36名とした。クロスウェル社のきりつ名人を用い、耳鼻咽喉科でよく使用されるSchellong試験の方法に従って起立試験を行い、血圧、脈拍、CVRR、HF、LF/HFの値を得た。
過去のメニエール病患者における報告では、副交感神経活動度が低下しており起立時や立位時に交感神経反射が相対的に大きく認められるとされていたが、今回の検討では副交感神経活動度の低下は見られず、起立時の交感神経反射上昇が認められるのみであった。メニエール病患者では、交感神経反射に対する反応性が低下しているという報告があり、血圧脈拍の大きな変化を抑制するためにこのような反射系にシフトしていると推測した。
耳鼻咽喉科においては、これまで起立試験時に血圧、脈拍のみしか計測せず副交感神経系の評価については行わないことが多かった。今回、心拍変動であるCVRR、HFやLF/HFを計測することで、薬剤負荷試験などを行わずにめまい患者における副交感神経系を評価できた。めまい発作時の自律神経症状を軽減するためには、発作時の交感神経系の抑制が有効な対策と考えられた。

「体位性頻脈症候群に対する補中益気湯の効果の検討」
光藤 尚 田村直俊 平山真紀子 山元敏正
埼玉医科大学 脳神経内科

【はじめに】
 きりつ名人®は起立試験による自律神経機能を多角的に評価できるソフトであり、我々はこのソフトを用いて能動的起立試験を実施している。そのプロトコールは安静臥位を15分間行い、その後に持続的な脈拍測定と1分毎に血圧を2回測定した後、血圧測定開始2分後に起立負荷を行い、以後1分毎に5回血圧の測定を行うというものである。起立性調節障害では補中益気湯をはじめとする漢方薬を用いることが多いが、その作用機序については明らかではない。補中益気湯は頭蓋内血流を増加させるとされているが、その他の機序は不明である。今回、補中益気湯が奏功した起立性調節障害の30代男性の治療開始前と起立性調節障害の改善後の自律神経機能をきりつ名人®を用いて比較した。
【症例提示】
 30代男性。現病歴;高校を卒業後就職。職場の人間関係などに憤りを感じて転職。屋外での作業に従事するようになった。20歳時に炎天下で作業をした後からふらつき・めまいを自覚し、耳鼻科や精神科を受診したが、原因不明で抗不安薬の内服を5年以上続けた。しかし症状が改善しないことから当科を受診した。
一般身体所見と神経学的所見;ともに異常を認めなかった。
起立試験の成績;補中益気湯服用前のきりつ名人®を用いた能動的起立試験では、体位性頻脈を認めた。
【経過】
 補中益気湯7.5 g/日の内服を継続したところ自覚症状は改善、1年後の能動的起立試験の再検では、体位性頻脈は改善した。きりつ名人®を用いて、治療開始前の自律神経機能と社会復帰後の自律神経機能の比較を行った。治療開始前は臥位から立位時の⊿CVRR:2.68(%)と⊿norm CCV(HF)3.98(%)だったものが、症状改善後はそれぞれ⊿CVRR:4.04(%)と⊿norm CCV(HF):10.12(%)と変化を認めた。
【考察】
 補中益気湯は体位性頻脈症候群における起立後の副交感神経神経機能活動を増強すると考えた。この点をより明らかにするために、今後は多数例での検討が必要である。
【結語】
 補中益気湯は自律神経を介して体位性頻脈症候群に有効である可能性がある。

「休職期間中にrTMS磁気治療を受け、自律神経機能変化、唾液中コルチゾール変化との関連について考察した一例」 
  田中遥先生(ベスリクリニック院長)

田中 遥1)2)、石井 遼1)、胡 愛玲3)、山口 琢児3)、小林 弘幸2,3)
医療法人ベスリ会 ベスリクリニック1)
順天堂大学医学部病院管理学2)、漢方先端臨床医学3)

【初めに】
 うつ病患者は抑うつだけでなく、頭痛、動悸、めまい、倦怠感などの自律神経症状も呈する。現在うつ病治療においては、薬物療法だけでなく経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation: TMS)治療での効果も立証され臨床応用されている。しかしTMS治療にともなう自律神経機能の変化について検討された論文は少ない。今回休職中にTMS治療をうけた症例について自律神経機能を測定し、TMS治療が自律神経活動に及ぼす影響について検証した。
【方法】
 休職中の患者1名に対しT M S治療を計20回実施
 抑うつ状態(SDS) 初診、5回目、10回目、15回目、20回目に測定
 気分プロフィール調査(POMS2) 初診、20回目に測定
 自律神経機能検査(きりつ名人:株式会社クロスウェル)初診、10回目、20回目に測定
 唾液中コルチゾール 初診、5回目、10回目、20回目に測定

【【結果】
 抑うつ状態(SDS):初診日から20回目にかけて低下した
気分プロフィール調査(POMS2):ネガティブ項目であるAH(怒り-敵意)、CB(混乱-当惑)、DD(抑うつ-落ち込み)、FI(疲労-無気力)、TA(緊張-不安)は低下、ポジティブ項目であるVA(活気-活力)、F(友好)は上昇した。
自律神経機能検査:初診日から20回目にかけて安静CVR-Rは低下、安静ccvL/Hは低下、ccvHFは上昇した。
唾液中コルチゾール:初診日から5回目にかけてコルチゾール値は上昇したが、10回目、20回目にかけて低下を認めた。
【考察】
 TMS治療により抑うつ症状を含む気分の回復を認めた。また、交感神経活動の低下ならびに副交感神経活動の上昇がみられ、TMS治療により自律神経活動が変化することが示唆された。本症例は一症例での検討であり、今後複数の症例数をもって検討する事が必須と考える。

「着衣センサによる運転中の呼吸モニタリング」
 湯田 恵美先生(東北大学大学院工学研究科)

湯田 恵美1), 吉田 豊2), 早野順一郎3)
1) 東北大学大学院工学研究科  2) 名古屋市立大学芸術工学研究科 
3) 名古屋市立大学大学院医学研究科

【目的】 心電図や脈波などによるドライバーの眠気検出が試みられているが,運転中に安定した信号を得ることは容易でない.そこで本発表では,比較的安定した記録が可能な着衣センサによる呼吸モニタから得られる信号によって運転中の眠気の検出が可能かどうか検討した.
【方法】 健常被験者7名(男性5名,女性2名,45±9歳)を対象として,自動車運転中4 – 24hの心電図,呼吸曲線,身体加速度を計測した.心電図,呼吸曲線,身体加速度の計測にはシャツ型ウェアラブルセンサであるHexoskin(Carre Technologies社,Canada)を用いた.Hexoskinはウェアとロガーから構成され,計測した生体データは,ウェアポケット内のロガーに保存された.ウェア裏面には心電図を計測するためのセンサー(電極)が付されている.ロガータイプは48時間分のデバイスを使用して,計測データはクラウド上にアップロードした.クラウド上に保存したデータをインターネットブラウザからアクセスして,Open Data APIを使用することで心電図,呼吸曲線,身体加速度のCSVデータをダウンロードし,分析ソフトウェアVitalRecorder(キッセイコムテック株式会社,長野県)を用いて後解析を行なった.各生体信号のサンプリング周波数は,心電図アナログ256Hz,呼吸アナログデュアルチャンネル128Hz,加速度アナログ3D 64Hzである.また,ホルター心電計Cardy 303 pico+(スズケン社,愛知県) を用いて,データの欠損や破損に備えて心電図および身体加速度データのバックアップを行なった.バックアップのサンプリング周波数は,心電図アナログ128Hz,加速度アナログ31.25Hzとした.眠気検出手法は,心電図から眠気を推定するDip & Wave法(Hayano J et al, 2018)を用いた.
【結果】 Hexoskinから得られた心拍変動および呼吸曲線データの1例を図1に示す.また,呼吸曲線及び心拍変動指標における周波数解析の結果(24時間データの1例)を図2に示す.
【考察】 運転中にHexoskinから得られた心電図は測定時の体動や衣服のずれが原因と思われるノイズが多く,心拍変動推定は安静や睡眠中に限られることから,低周波ノイズによる影響を最小限に抑える工夫やノイズを除去するためのフィルタリング手法を適用して解析精度を向上させる必要がある.データバックアップに用いたホルター心電計データと比較したところ,心電図においては睡眠時以外の相関が低い結果となった.運転中は比較的体動が少ないものの,ハンドルの動き等でノイズが混入したと考えられるため,Dip & Wave法からの推定が困難であった.測定データに含まれるノイズは Kalmanフィルタで低減できる可能性がある.短時間の測定データで解析を可能とするため,有効性の検証を行ったうえで,安静測定が困難なドライバの呼吸曲線から眠気を連続的に推定するアルゴリズムが必要である.
【結論】 本研究では,心電図を用いた眠気指標Dip & Waveの検出が難題であったことから,呼吸曲線を用いた眠気の定量的推定は困難であった.しかし,バックアップに用いた心電図・身体加速度波形から眠気を検出し,呼吸曲線と時系列を合わせて解析することで一定の効果が期待できるものと思われる.心拍変動指標と呼吸曲線からドライバの眠気を推定する手法として,短期変動および長期変動に着目した解析を行うなど,今後さらなる工夫が必要である.

「鍼刺激による夜間睡眠中の間質グルコース濃度の評価」
山本健人先生(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

山本健人1,吉田豊2,山田篤3 ,湯田恵美4,早野順一郎3
1)筑波大学大学院 人間総合科学研究科 
2)名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科
3)名古屋市立大学大学院 医学研究科 医学医療教育分野
4)東北大学大学院 工学研究科 電気エネルギーシステム専攻

【目的】
近年,皮下組織の持続留置センサの普及によって日常活動下の間質液中グルコース濃度(ISFG)の持続的なモニタリングが可能となった.本研究では糖尿病患者の鍼治療を目的として,糖尿病2名を含む8名を対象に,鍼刺激後の夜間睡眠中におけるISFGの変化を評価した.
【方法】
対象は糖尿病2名(DM1:76歳,DM2:47歳)と健常者6名(48±10歳)で8名とも男性ある.鍼刺激は黒野式を用いて,木曜日の13時30から14:00の間で行った.ISFGはFree Style リブレフラッシュ グルコースモニタリングシステム(Abbott)を用いて2週間測定した.実験はクロスオーバーデザインを用いて,初めの木曜日に鍼刺激4名とし,残りの4名は翌週の木曜日に鍼刺激を行った.睡眠中のグルコース値は30分の平均値で算出した.
【結果・考察】
2週間のISFGはDM1:171[mg/dl],DM2:146[mg/dl]であり,健常者6名のISFGは102±6[mg/dl]であった.鍼刺激無しに比べて鍼刺激有りは,健常者のISFGは然程変化しなかったが,糖尿病は共に大きな減少が観察された.

 

 

 

 

Fig.2 鍼刺激有無による夜間睡眠中の間質液中グルコース濃度の変化.
(a)DM1,(b)DM2,(c)Healthy (n=6)●:鍼刺激有り,▲:鍼刺激無し

 

「心拍数と鍼通電刺激時刻」
佐藤俊介様(帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科)

佐藤俊介2)、高橋海人1)、鈴木卓也2)、脇 英彰1, 2)、玉井秀明1, 2)、久島達也1, 2)
1)帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科2)帝京平成大学大学院健康科学研究科
【目的】
 安静時心拍数(HR)の生理的な日内変動は、午前より午後に高値を示す。日内変動の異常は各種ストレスに対する生体応答性を低下させることが知られるため、鍼刺激のHRへの反応性は、刺激する時刻によって異なる可能性がある。本研究は、HRと低周波鍼通電刺激(EA)時刻の関係を明らかにすることを目的に、午前及び午後のEA刺激がHRに及ぼす影響を検討した。
【方法】
 本研究は、帝京平成大学倫理委員会の承認を得て、健常男性18 名(20.93±1.27歳)を無作為に介入時刻が9時の午前介入群と16時の午後介入群に割り付け、ランダム化クロスオーバー試験を実施した。実験では、5分間の安静後、5分間の100HzEA刺激を行い、継時的にHR の測定を行なった。EA刺激の部位は頭部前髪際中央の外方1cmとその上方7cmとした。解析は脱落した3 名を除く15 名で行い、解析区間は刺激前20 秒と刺激後20 秒とした。統計解析は対応のないt検定を用いて行った。
【結果】
 HR の減少量は午前介入群と午後介入群で有意な差を示さなかった。しかし、安静時HR が午前より午後で高値を示す被験者と、安静時HR が午後より午前で高値を示す被験者に分類し解析したところ、前者は午前介入群より午後介入群においてHR の減少量を増加させた(p<0.05)。一方、後者は午前介入群と午後介入群を比較し、HR の減少量に有意な差を示さなかった。
【考察】
 EA刺激によるHRの減少は、HRの生理的な日内変動を示す被験者において、日内変動の高値を示す午後に顕著となったことから、HR日内変動に反応特性を示す可能性が考えられた。
【結語】
 安静時心拍数が午後に高値を示す被験者において、EA刺激は午前より午後の実施で心拍数を減少させることを確認した。

「鍼通電が作業効率、自律神経活動、前頭前野の血流量に及ぼす影響」
 脇英彰先生(帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科)

脇英彰1,2)、鈴木卓也1)、久島達也1,2)
1) 帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科 2) 帝京平成大学東洋医学研究所
【目的】
 これまで、三叉神経第一枝(V1)領域に対する鍼通電(EA)が副交感神経活動を亢進させ、両側の脳血流量を増加させることを確認してきた。自律神経活動や前頭前野の血流量の低下は作業効率を低下させることから、本研究ではV1領域へのEAが作業効率、自律神経活動、前頭前野の血流量に及ぼす影響を検証した。
【方法】
 健常成人(男性5名、23.40±1.34歳)を無作為に無処置群とEA群に割り付け、クロスオーバー試験を実施した。試験前日は計算の慣れによるバイアスをなくすために計算課題(内田クレペリン試験)の練習を行い、当日は10分間の介入(無処置またはEA)、5分間の安静、その後に1分間の安静と計算負荷を交互に各5回繰り返すブロックデザインを実施した。また、介入後には介入前と比較した爽快感、計算課題後には練習と比較した作業遂行度をNRSにて評価し、作業効率を回答数と正答数にて評価した。EA群の介入はV1領域に相当する両側の眉毛内端と前髪際中央の外1.5cmに実施した。刺激周波数は100Hzとし、刺激強度は痛みの感じない程度とした。無処置群は介入を行わず座位安静のみとした。また、自律神経活動は、心拍数 (HR)から心拍のR-R間隔変動より低周波(LF)成分と高周波(HF)成分を解析し、LF/HFを交感神経活動、HFを副交感神経活動の指標として求めた。脳血流量は、前頭極部にプローブを装着し、近赤外分光法にて測定されるoxyHb量の変化とした。
【結果】
回答数と正答数は、無処置群と比較しEA群で増加(p<0.05)が示された。HR、LF/HF、HF、左右のoxyHb量は群間で差はみられなかった。また、介入後の爽快感と計算負荷後の作業遂行度は、無処置群と比較しEA群で高値(p<0.05)を示した。
【考察・結語】
 V1領域へのEAは計算課題時における主観的、客観的項目の改善が見られたことから、集中力や課題遂行能力に有用な介入となる可能性がある。

「日帰りヘルスツーリズムが自律神経活動に与える影響」
 藤田小矢香先生(島根県立大学看護栄養学部)

藤田小矢香、小田美紀子、林健司
島根県立大学看護栄養学部
【目的】日帰りのヘルスツーリズム「マイナスをプラスに転じる旅」を企画した。講話(マイナス思考をプラス思考にかえる話)、食事、陶芸体験、温泉浴を体験することにより、自律神経機能に及ぼす影響について科学的検証を行った。
【方法】ヘルスツーリズム参加者45名のうち、温泉入浴を行わなかった女性1名、妊婦1名、老年期1名を分析対象外とした。測定はヘルスツーリズムの前後で行った。自律神経機能検査は「きりつ名人」(株式会社クロスウェル:きりつ名人)を用いた。倫理的配慮は島根県立大学出雲キャンパス研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:187)
【結果】対象者42名(男性3名,女性39名.平均年齢47.5±9.0歳)におけるCVRR(自律神経活動全般),ccvL/H(交感神経活動),ccvHF(副交感神経活動)を分析した。CVRRでは安静と起立で有意に低下していた(図1)。ccvL/Hでは⊿ccvL/H以外のすべての項目で有意に上昇していた(図2)。ccvHFでは⊿ccvHF以外すべての項目で有意に低下していた。
【考察】自律神経活動を示すCVRRと副交感神経活動を示すccvHFは低下し、交感神経活動を示すccvL/Hは上昇していた。変化量(⊿)に有意差はなかった。安静時CVRRは心身の状態を、安静ccvL/Hは心身の緊張度、安静ccvHFはストレスの回復力を示す。このことから本ヘルスツーリズムに参加することで心身の緊張を和らげ、ストレスに対する基礎対応力を整え、ストレスへの回復力を向上させることが示唆された。
【結論】本ヘルスツーリズムは自律神経活動を整え、ストレスに適切に対応できる心身に変化させる可能性が示された。

「執務者の生産性を推定する診断技術の開発」
堀田竜士様(富士ゼロックス株式会社 研究技術開発本部 コミュニケーション技術研究所)

堀田竜士,小村晃雅,涌井美帆子
富士ゼロックス株式会社 研究技術開発本部 コミュニケーション技術研究所
【目的】近年,生体センサーから得られた情報を活用し,企業などで働く執務者の業務の生産性を評価する試みが始まっている.しかし,執務者の業務は多岐にわたるため,生産性自体の評価は難しい.一方,高い生産性を発揮している執務者には,共通の執務状態が存在することが予想される.我々は,生産性と関係が深いと考えられる執務状態を診断し,執務者の生産性を推定する技術の開発を試みた.本稿は,開発した技術と診断結果の評価の概要を述べる.
【仮説】縦軸を集中度を示す「没入感」,横軸をリラックス度を示す「開放感」とし,2 軸 4 象限で執務状態を定義した(図 1).図 1 のスイスイの状態,すなわち没入感と開放感が共に高い時に,執務者は高い生産性を発揮すると定義した.診断には,縦軸は HR(bpm),横軸はHF(ms2)のゆらぎに基づいた独自の生理指標を用いた.これらの指標を用いて,就業時間中に採取した心拍変動データから執務者の状態を診断し,診断レポートを自動で作成する技術を開発した(図 2).
【診断結果の評価】企業 A に勤める 34 名の被験者(年齢:20 代から 60 代,性別:男性 27 名,女性 7 名)に対し,通常業務(デスクワーク,会議含む)を行った 1 日の診断レポートを見せ,診断結果がどの程度合っているかを評価してもらった.評価には 5 段階のリッカート尺度を用いた.結果は「1.全然合っていない(0%)」,「2.あまり合っていない(2.7%)」,「3.どちらともいえない(5.4%)」,「4.おおよそ合っている(29.7%)」,「5.かなり合っている(62.2%)」となり,4,5 の肯定的な回答を行った被験者が全体の 91.9%を占めた.
【考察】生体指標を用いて執務者の状態を診断した診断レポートに対して,9 割以上の被験者から肯定的な回答を得た.今後は診断に用いた生理指標と生産性との関係を明らかにしていく.


「心不全患者における運動中の心拍変動解析」
勝俣良紀
慶應義塾大学循環器内科

心不全患者に対して有酸素運動は推奨される。本研究では、心不全患者で運動中の心拍変動解析により嫌気性代謝閾値(AT)を予測できるか検討した。当院で心肺運動負荷検査(CPX)を施行した有症候性心不全患者67名において、最大エントロピー法による心拍変動解析を用いてCPX中の高周波成分(HF)を連続的に評価した。安静時HF10をcutoffとし、患者背景を2群間で比較した(38名[高HF群;HF≧10] vs. 29名[低HF群;HF<10])。運動中HF<5(10秒以上持続)を心拍変動閾値(HRVT)と定義し、HRVTとAT時点での酸素摂取量(VO2)の関連を検討した。β遮断薬投与量や左室駆出率などには両群間で違いは認めなかったが、年齢・心拍数・BNP値・推定肺動脈圧・VE-VCO2 slopeは低HF群で有意に高い傾向にあった。低HF群では全例ではHRVTは評価できなかったが、高HF群ではHRVT-VO2とAT-VO2との間に高い相関を認め、系統誤差は認められなかった。比較的若年かつ心不全代償例を示唆する高HF群では、単誘導心電図を用いた運動中のリアルタイム心拍変動解析で簡便にATを推定することに成功した。

「ホームエクササイズの新しいメニュー・木剣体操エクササイズ」
「要の技」の自律神経活動改善効果の検討〜要の技でこころと体をリフレッシュ!~
岩坂潤二
関西医科大学循環器内科

【背景】
健康21では週2回以上の運動実施を運動習慣としており、自宅で運動療法を継続するホームエクササイズが重要になってきている。我々は、明治時代に学校での体操のメニューとして開発された木剣体操をベースに、新しい運動メニューとして木剣体操エクササイズを開発し、その安全性と有効性、楽しさについて検討、報告してきた。原典の「木剣体操法」では、各自永年にわたり行う「要の技(かなめのわざ)」が記載されている。
われわれはこれを元に、約4分30秒のプログラムとしてBTX版要の技を開発した。
【目的】
今回、この要の技が自律神経活動にどう影響するか調べてみた。
木剣体操エクササイズについて:明治初期から教育制度も西欧化され、学校体育も医学合理主義に立脚した合理的体育観を反映し西洋式体操が導入された。一方、武道は正課では禁止となり、課外遊戯の一部とされた。
これに対して伝統的な精神を拠所とし、「体操化」して正当性を確保しようとしたもので、小沢卯之助の 「武術体操」と中島賢三の「木剣体操」などがある。
明治後期のスウェーデン式体操導入とこれを中心とした「学校体操教授要目」制定ののち次第に衰退したが、山形県剣道連盟居合道部の鈴木亨氏(居合道七段)が中心となり、前出の2文献から、新たに「木剣体操」として復元された。2016年に岩坂が鈴木氏から伝達された木剣体操を運動療法用にアレンジし木剣体操エクササイズとした。
【方法】
40歳代後半の男性を被験者とし、きりつ名人による計測のあと、要の技を行い、終了後に再度きりつ名人での計測を行った。
【結果】
前後のデータを比較すると、要の技の前後で自律神経活動の改善が見られた。
【考察】
われわれの要の技は、継続的に簡単に行う運動として適切なものであると考えられた。

***交流会会場***

 

***BGM***

音楽には、楽しさを感じたりなつかしさに浸ったりといった感情面への作用だけでなく、認知面や身体面にもさまざまな良い影響があることをご存じでしょうか?
私たちはこの度、世界中の数多くのエビデンスと自らの検証により、その効果について1冊の本にまとめました(「こころとからだが楽になる音楽活用術」上月正博・酒井博美著 風間書房)。
その中から一部を紹介します。
病院やクリニックで音楽がかかっていることがあります。何となく落ち着くといった印象がありますが、それだけではなく、音楽を使うことにより手術、注射、検査の痛みが減ることが明らかになっています。これは音楽が痛みから気をそらすことで痛みの感じ方に対して作用するからです。このとき、音楽に集中すればするほど、より痛みを感じにくくなるようです。
また、自律神経の活動は音楽によって覚醒と鎮静の両方向に変化することが古くからの多くの研究で示されています。
具体的には、テンポが速くリズムや旋律が複雑で覚醒的な音楽では心拍や筋緊張の増加がみられ、反対にテンポが遅くリズムや旋律が単純で鎮静的な音楽では心拍や筋緊張の減少、皮膚温度の増加がみられることがわかっています。さらには、日常生活に音楽聴取を取り入れるだけで血圧が正常化したという研究結果もあります。
ぜひさまざまな生活場面で、手軽に取り入れることのできる音楽を上手に活用したいものです。

酒井 博美
東京福祉大学短期大学部准教授、東北大学大学院医学系研究科非常勤講師、和洋女子大学心理学類非常勤講師。博士(障害科学)。公認心理師。

臨床自律神経機能Forumでは活発な交流会になることを願って毎回BGMにもこだわっています。
今回は「こころとからだが楽になる音楽活用術」付属のCDをBGMとして活用しました。

協賛

株式会社エー・アンド・デイ
株式会社ヴェルツ
日本メドトロニック株式会社
バイオトロニックジャパン株式会社
富士ゼロックス株式会社
MedVigilance株式会社
森永乳業株式会社

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